第六話 死にゆく結末を避けようとする
僕の名はファル、姓はもうない。
勘当通告を受け取り、自害を命じられた僕は自室のベッドに腰掛けて
「はは……もう何もしたくないや」
乾いた笑い声を出して、弱弱しい声で呟く。
明日には荷物をまとめて出て行けと言われているが、身支度を終えていなかった。
「だいぶ時間が経った気がする……」
顔を見上げて窓の外を覗く。
夜明けと呼べるだけの明るさがそこにはあった。
「自害せよか」
手紙に書いてあった内容を思い出していた。
このまま生きててもいいことなんてないだろう。
――――これまでの人生を思い出す。
七歳のときに事故で両親が亡くなり、魔法使いの名家――ファインハーゼ家の子息だからとアルスター家に引き取られるも、一〇歳で魔力が無いと判明してからは、人間扱いされてこなかった。
それでも何かを求めて剣を振るい鍛練を続けてきた。
頑張れたのは一緒にいるのが楽しいと言ってくれたセラや努力している僕をいつも応援してくれたマナがいたおかげでもある。
何より前校長――僕の唯一の遠戚であるティル・ファインハーゼが僕をいつも庇ってこれたおかげで生きてこれた。どんな立場の者にも分け隔てなく接する気さくな人だった。中庭の場所を教えてくれたのも、中庭で木の幹を打ちつけてくれたのも、僕を嫌う教師から守ってくれたのもティルさんだ。だけどティルさんは三ヶ月前に不審死した。
それでもティルさんの「努力は無駄になるかもしれない、でも身に付いた筋肉や経験は無駄にはならないだろう。ならやるしかない」という言葉を思い出して頑張ってきた、他にも元気づけてくれるような、有難い言葉をたくさん言ってくれたけど……努力は無駄になった。これから死ぬから筋肉も経験も何の役にも立たないよ。
なんでこんなことになったんだ。
悲壮感と共に抗いたいという感情が湧いてきた。
死ななければいつか身に付いたものが役立つかもしれないんだと思ったのもあるけど、何より――理不尽だと思った。
不平等で不公平、いや、世の中そんなものだ。
それでも、こんな結末は迎えたくはない。
時間が立って気持ちが落ち着いたのか僕は気を取り直したかのように立ち上がる。
「逃げよう」
僕は王都から逃げることを考えた。
今、僕の手元には木剣しかない。武装としては
トレイシア貴族学園は古い王城を校舎として使用しており、武器庫もある。そこで何かを調達しよう。
僕は寮から宿舎へと向かった。早朝で
王城だった校舎の正面には、赤茶色の巨大な両開きの扉がある。そんな目立つところからは入らず、ティル先生が教えてくれた隠し通路を通る。寮から離れた場所に枯れ井戸があり、その井戸を縄を伝って下りると、校舎内に繋がる通路がある。
ティル先生が僕に隠し通路の存在を教えてくれたのは、僕が夜遅くまで木剣を振るっていたからだ。校舎の正面から帰宅すれば、道中で校舎内を巡回する兵に見つかってしまい面倒事が起きるので先生は僕に隠し通路があることを教えてくれた。
土造りの隠し通路を抜けると校舎の地下二階にある使われなくなった地下牢に出る。
次に地下一階へと行き、その階にある武器庫へと向かう。
すると、途中にある扉から話し声が聞こえた。
ここは確か校舎を見回っている兵士の休憩部屋だ。
足音を立てずに移動しようとするが、扉の向こうから聞こえた言葉で思わず足を止めてしまった。
今確かに、僕の名前を言っていた。
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