第3話 部屋を出よう。ダンジョンに行こう(だが行けない)
――かつて、『
圧倒的な力でもって、国中の
☆★☆彡
「ダンジョンに行くにはどうすればいいですか?? お外に出ずに(超重要)――っと」
ダカダカダカッと打ち込んだ。
“無理だが”
“Vtuberが? ダンジョン行くの? なんのために?”
“ダンジョン人多いぞ”
“外に出ないのは物理的にムリじゃないですかねぇ……”
“ばーか、ばーか”
「うにぁあああ~~、クソリプばっかりぃ」
SNSにダンジョン配信をしたいとつぶやいたところこのクソ反応である。最後はファンでもなんでもない通りすがりからの罵倒だった。
「何のために? じゃないよッ! ダンジョン配信しないとキミらが見てくれないからでしょぉぉお~ッ!!」
キーボードをたたきながらぷりぷり怒った。
「私がどうして、馬鹿とか言われなきゃいけないのぉ~~!!」とむくれてもいる。
詠歌とて、外に出れるなら出たい。
だが、無理なのだ。結界を張った家の外に出た瞬間、妖の怨霊が詠歌に襲い掛かる。
昼間ならどうだろうと、先ほど玄関のドアを開けてみた。
そしたら、やっぱり居た。
「シィィイイイイネェェェエエエエエ!!!」
と大
「はぁ~~妖ってまじクソ。ちょっと殺しただけで、逆恨みするなんてぇ」
何年前のことだと思ってるのーと、ぶー垂れる。
「待ち構えてるとかぁ~、ストーカーだよぉお~~。私が外に出たら即コロスつもりでぇ~~、しつこいが過ぎるぅう~~」
この家は、所属していた陰陽師の組織が作った結界である。家の中にいれば怨霊たちは詠歌に手を出せない。建物の中には決して入ってこれないのだ。破軍巫女としての力を失った詠歌が安全に過ごせるのは、この家の中だけだった。
「だけど、外出られないのは不便だよぉ……。『
と助けを求めたが、応えるものは無い。
本当ならば、彼女の式神が現れるハズだったが。
「やっぱり出ないしぃ……。閉じ込められてるのに、配信で稼げなくなったらどうやって生きていくの?
今の時代、通販や各種配達サービスがあるから家から一歩も出ずにでも生きられる。だがそれも定期的な収入があればのことだ。
配信収入が断たれた詠歌は、軽く詰んでいた。
☆★☆彡
「――聞いてください……、オリジナル曲『令和最強☆彡陰陽師』」
♪令和の世だって、あやかしはいるさ
心が澱めば瘴気が生まれる、生まれた瘴気で正気が消える
そんな時にはみんなで呼ぼう
陰陽師、陰陽師。令和最強☆彡陰陽師
(セリフ)
過去、人類と妖魔の間で人知れず大きな戦争があった。
歴史の闇に埋もれたその戦いを制したのは、人類。
その守護者、
♪光よ照らせと私は言った。みんなが呼んだよ陰陽師。
三つの式神を呼び出せそう。
あやしあやかし、光になれ!
陰陽師、陰陽師。私は退魔陰陽師☆彡。世界を影から守るのよ。あちょー!
ちゃらっちゃちゃら~~
曲が終わった。ハァハァと息を整えて詠歌は配信中のPC画面を見た。
「――ど、どうかな新曲っ」
“どうって”
“苦笑い”
“80年代のアニソンかな?”
“ヤバい。ゲボりそうになった”
“ふるいwwくさいwww”
“リリカナ様、陰陽師って設定やったなそういえば”
「うにゃああ、何その反応っ!?」
その日、配信枠に来ていた視聴者は5人だった。
大々的に歌枠やります! と宣伝したのにこの結果だ。
「新曲だよ!? オリジナルだよ!? 私の作詞作曲だよ! もっとこう、ないの!?
“いやもうVはあきらめろって……”
“流行り廃りの前に、才能がない”
“そもそも陰陽師キャラって(笑)”
“ファンタジーがすぎるんゴ”
「お、陰陽師はファンタジーじゃないよっ、本当に存在するんですーっ!」
“なんだっけ、
“リリカナ様は引退した最強格なんだったな(設定)”
“でも実際は引きこもりの小娘だからなぁ……”
“昼間ダンジョン行くとか言ってたけど、ダンジョン配信は危険なんだよ。引きこもりじゃ無理だよ。身の程知ろうぜww”
と煽られる始末だ。
「あのねぇ君たち。私、『破軍巫女』って言ってね、界隈じゃちょっとした有名人なんですけどぉ!? そこら辺の妖なんか相手にならないくらい強かったんだよ! 君たちみたいなザコザコなお兄ちゃんたちなんか、ボコボコだよ。そんな私だから、ダンジョンに行っても活躍間違いなしってわけだよ!」
“ナチュラルに罵倒するやん”
“これだからリリカナは……”
“助からないし、ありがたくもない”
“うwざwいww”
“言うて設定やからなぁ……”
「いや設定じゃないんだってぇ。枯れちゃっただけで、リアルに陰陽師!」
“じゃあ力見せてよ”
“そしたらまぁ信じるわ”
「え、それは……」
詠歌は口をつぐんだ。
「霊力がない……。だいぶん前に消えちゃったから。だからしょうがなく家でVtuberしてる……」
“家から出ないのは別問題では?”
“正直に言えよ。Vにしがみついてるのは、引きこもりだからだろ?”
“働け。社会不適合者”
外に出た瞬間に殺されそうになるほど狙われているという事情を知らない視聴者たちが
「ばーか、ばーか、ざこざこおじさん! 事情も知らないで好き放題ってくれちゃって、ほんっとうにダサーい! もうすぐ力を取り戻す予定なんだからね。そしたらみんなまとめて吠え面かかせてやるよ。今に見てなさいよ!」
思わず、いつもの口の悪さが出た。それに少ない視聴者たちは
“態度わる……。登録消すわー”
と配信から抜けていった。結果、詠歌は一人になった。
「――ぐや"し"い"い"ぃ……、昔の力さえあれば。こんな、こんなぁ」
腰まで伸ばしたままの黒髪が、落ちて広がった。
そのまま小さく振るえて、嗚咽が漏れだした。
むかしの詠歌は最強だった。上司にあたる陰陽寮のおばばたちは厳しかったが、助けた人々からは『破軍巫女』とたたえられ英雄扱いだった。
だが今の彼女は小柄で非力で、寄る辺も何もないただの少女だ。
幼いころから陰陽師として生きたせいで、引退した今では家族もなく学もなく仕事もない。ただただ無力な人間だった。それが堪らなく悔しい。
「馬鹿ばぁーか……、からっぽの自分、馬鹿ばぁーか……」
そんな詠歌に転機が訪れたのは、数日後のことであった。
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