実話妄想

昔、友達と車で小旅行した時。

「夕飯どうする?」という話になって、お店をいろいろ探していたらかなり遅くなってしまった。

田舎だったので店はすぐに閉まってしまい、コンビニ飯で妥協する流れになっていた。

そんな中、少し山道に入ったところに営業中のお店があった。

僕達はこのお店にしようと即決し、入店した。


お店は年季の入った定食屋で、メニューには和食も中華も洋食もあった。

お客は僕達しかいなくて、愛想のいい女将さんが接客をしてくれた。

女将さんが

「時間的にラストオーダーなのよー

せっかく来てくれたのにごめんなさいねー」

と言われたが、お店が見つからず諦めていた僕達にとっては何も問題なく、逆に営業してくれてありがたいという感謝の気持ちでいっぱいだった。


僕達は各自好きなものを頼み、無事夕飯へとたどり着いたのだった。

味はどれも美味しくて、ジュースもサービスしてくれたりとお店の暖かさに感動していた。

お会計を済ませ、車に乗って旅館に帰ろうとした時、お店から女将さんが出てきてお見送りをしてくれた。

僕達は車の窓を開けて

「遅くにすみませんでした。美味しかったです。」

と女将さんに伝えると

「お口に合ってよかったー また来てくださいねー」

と手を振って僕達のことを見送ってくれた。

ずーっと見送ってくれた。

後ろを振り返るたび両手を大きくあげ手を振ってくれていた。

お店が見えなくなるまでずーっと。



僕はこの思い出でたまに変な妄想をしてしまう。

もし、あの山道で僕達の姿が見えなくなっても、あの女将さんが手を振り続けていたらという妄想だ。

真っ暗な山の中でずーっと。

あの時と同じ暖かい笑顔でずーっと。

誰もいない山道に向かってずーっと手を振っているのではないか。

そんな妄想を寝る前にしてしまうのだ。

寝ようとしているこの時、今、同じ時間に山の中で手を振ってる女将さんを思い浮かべてしまうのだ。

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