第4話

リビングルームのテレビを見ながら、少し前に小学生になったばかりの弟が騒いでいた。テレビにはヒーロー戦隊ものが流れていて、おもちゃを片手に必殺技を叫んでいた。


世の中の小学二年生はどうだかわからないが、弟は一つのことに長い時間夢中になれるらしい。幼稚園から変わらないその光景を横目にソファに座る。



すると私に気付いたのか、「ねぇちゃん!」といって駆け寄ってくる。ちょっと前までは「ねぇね」だったのに。



弟の成長にしみじみしていると、弟は右手に持っているヒーローのおもちゃを私に差し出して言う。


「おれ、おおきくなったら、ヒーローになる!」

「ヒーロー?いいねぇ、かっこいいじゃん」

「だろ!」

「うんうん」

「おれはこのカブトムシ星人になるから…ねぇちゃんは、ヘラクレスマン!」

「いいの?ヘラクレスマンもらっちゃって」

「おう!ヘラクレスマンはな、このムシムシヒーローのリーダーなんだけど、」


もう、よくわからない。ごめんヒロくん。ムシムシヒーローの話ついていけないや。

ひととおり喋って満足したのか、またテレビに戻っていったヒロくん。おいしくなかった、なんて言ってチョコもくれた。半分押し付けられたけど。


小学生ってすごい。元気が余ってるね。



スマホを開くと、彼の配信の通知が来ていた。

ふと、テレビに映るアニメが目に入る。

もし、かれがヒーローだとしたら、まぎれもなく主人公だろう。ヒロくんの言っていたカブトムシ星人も、アニメの中では悪役でも、ヒロくんの中では主人公だ。


…なんか、あれだっけ。誰でも自分の人生では主人公、みたいな名言があったな。あれをきいて、すごいいい言葉、くらいの軽い感想しか出せなかった。表現力がないのは許してほしい。



 あれは、人を元気づける言葉なんだろうと思う。けれど、画面の中の彼への気持ちが大きくなるほど思ってしまう。

彼を思って、彼に気付いてほしくて、好き、と自信をもっていえるように、ダイエットして、可愛くなって、成績も上げて、努力を重ねていくたびに思ってしまう。


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