掌編2「面影にも恋してる。」


「ねえ、どうしてお母さんと妹に甘いわけ? かーくんは私と付き合ってるんだよね? いくら家族でも、他の女には変わりないんだから、これは浮気にカウントしますけどなにか言い訳があるなら聞きますけどなにか言ったらどうなんですかねえ!?!?」


 彼女の実家に顔を出したところ、「夕飯くらい食べていったらどうなの?」とお義母さん(と呼ぶのはまだ早い?)に言われれば、断ることはできなかった。

 なので彼女の食卓に混ざっている……、向かいにお義父さんもいるけど、無口な人なので黙々と食事をしている。食事中に喋るな、と言うような厳格な人ではないのが幸いだった。


「え? ごめん、妹ちゃんと話してて……どうしたの、甘いものが食べたい?」

「それ、お母さんのご機嫌を取る時のやり方でしょうが……ッ!!」

「君も甘いものでご機嫌になるじゃないか……、満腹でも別腹とか言って――分かった、ちゃんと向き合うから、振り上げたその拳をゆっくりと下ろしてくれる?」


「すぐに怒るよねー、おねえちゃん。かーくんがかわいそうだよー」

「そうよねえ、かーくんをもっと大事にしなさいよ」


「うるさい泥棒猫ども」


 妹と母親に言うセリフではないと思うけど……。


 すると、椅子を引いて、彼女が横にぴったりとくっついてくる。


「あの……、密着しなくてもおれは他の人のところにいったりしないから……、君の家族なんだから優しくしたり甘やかすのは当たり前だろう? もちろん、君と違って制限はあるけど――」


「当たり前よっ、私にすることと同じことをしていたらその舌、ちょんぎってるわ!!」

「あはは……、怖いなあもう」


 キスに見せかけて噛み千切られてもおかしくはない。


「……あんた、妹とお母さんだけじゃなく、去年はお祖母ちゃんにも優しかったわよね? お年寄りに親切にしていると言うより、女として見ているような目だったわ……――女だったら誰でもいいわけ!? 逆にどうして私と付き合っているのか疑問よ!!」


「そうかなあ? 一本、筋が通っているとおれは自覚しているけど……」

「どこがッ」


 お祖母ちゃん、綺麗だったなあ、と思い返しながら――やはり彼女のお祖母ちゃんなのだから当たり前だ。隣の恋人がこんなにも可愛いのだから、その血縁者は、当然劣るけど可愛いに決まっている。


「だって、君の家族だよ? 君と同じ血が流れている妹、母親、さらにその母親――君とそっくりだから気になるんだよ……、君の家族の女性は、君に似過ぎなんだから……」


 もしも似ていなければ、彼女が不安になるほど気にかけたりはしなかったけど……。


 だから、似ているのが悪い。


「君が重なって見えてしまう以上、見て見ぬ振りができないんだよ」



 …了

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