第26話

 エリーはう~んと頭を抱えて考え込んでいる。


「天界の記憶がない?」

「そうなのよね。あっちの世界でケイくんを補助していた記憶はあるんだけど天界生活の記憶が一切ないのよね」

「その~天界って何ですかねぇ?」


 今まで沈黙を貫いていた煙が疑問を呈した。


「天界は端的に言うと神々の世界だな。俺がいた異世界トロイメアとか今いる世界と同じように一つの世界として存在してる」

「ステンノさんもエリーさんも異世界出身ということですかぁ」

「そう。ただ天界の特徴としてあらゆる世界と接しているから別にこの世界の常識を知らないとか文明を知らないというわけじゃない。現にエリーが俺のサポートをしているようにその特徴を利用してその世界の住人や世界を渡る人々に加護や神託といった形で関わることが多い」


 そうだよね、とアイコンタクトするとエリーは短く首肯した。


「だから直接その世界に関わることは基本的に無いはずなんだ」


 その天界の不文律があるからこそステンノの妹の封印には疑問が残る。

 なぜ天界に封印しなかったのか。

 なぜこの世界に、それも分割されて封印されているのか。

 ステンノの妹は封印を解除しても人間に害はないのか。


 情抜きで考えるとまだまだ動くには情報が足りない。


「だけど放っておくのも怖いよな」

「……何か?」

「いやなんでもない。いいよ。妹の救出、手伝うよ」

「貴様たちの手で成してみせよ」


 いつの間にか玉座に座っていたパンドラが肘をつき傲慢に言い放つ。


「何言ってんだよ。お前も手伝ってくれ。そのためにここまで来たんだから」

「はぁ!? 我のことが心配でしょうがなかった、とかではなく!?」

「まあそれもあるけど、お前とお前の視聴者の情報網を利用したかったって打算もある」

「貴様さっきまでの気持ちを返せ!! 前世のしがらみすら無視して心配してくれたって感動してたのに!!!」


 半分はそうなんだからそう受け取ってもらってもいいんだけど。

 さすがに素直に言い過ぎたか。


「でも心配したのは本当だ。信じてくれ。それに心配してたのはお前の視聴者も同じだからな。あとでちゃんと謝っておけよ」

「んぐっ……わかっておる!!」


 パンドラは玉座に座りなおすとスマホを取りだして画面をタップし始めた。SNSか配信サイトのコミュニティ機能で謝罪の文章でも送っているのだろう。


「それで今後の話なんだけど……ステンノ、他の手掛かりの位置ってわかる?」

「わからないわ。一番彼女の魔力がこもっていたあの彫刻ですらも目の前にしないと分からなかったんだもの」

「手っ取り早いのはネメシスの痕跡をたどって彫刻を取り戻すことだけど……パンドラ、一つ頼める?」


 スマホに夢中になってるんじゃないよ。手伝うって言ってたでしょうが。

 パンドラはスマホから顔を上げぽかんと口を開けて見事なアホ顔を晒していた。


「はえ? なんじゃ」

「視聴者に変異神域とかがしゃどくろみたいに他のモンスターからは浮いたダンジョンボスの情報とか集めてくれないか」

「ギルドの情報の方がよくないか?」

「いやギルドの情報だと正確な情報しか流れてこないでしょ? がしゃどくろみたいにギルドの情報にはなかった手掛かりもあるし現役探索者のネットワークで広がってる噂とかも拾いたいんだよ。登録者の多いお前ならネットワークも広いだろ?」


 パンドラの配信はダンジョン探索がほとんどだ。視聴者の中にはパンドラの姿だったりトークを主に見に来ている人もいるだろうが配信内容が内容なだけに現役探索者の視聴者も多いはずだ。


 一通り方針は固まったな。

 視聴者を通しての手掛かりの捜索。彫刻を強奪したネメシスを追い手掛かりの奪還と共に彼女の目的を探る。そして日課になりつつある変異神域の調査を通じた手掛かりの捜索。


 今できるのはこれくらいかな。


「頼むぞ。情報集めはお前がカギになるから」

「フン! 貴様がそこまで言うなら協力してやろうではないか。この借りは必ず返してもらうぞ」

「頼りにしてる」


 いつもの魔王らしい傲慢な態度に苦笑しながら、俺たちは出口へと向かう。

 これでやるべきことも決まったし協力者集めもやれることはやった。

 しばらくはダンジョンに潜りながら情報を待つフェーズかな。


 ダンジョンから脱出すると、黒崎さんが真剣な顔で待ち受けていた。

 早速何か情報でも入ってきたのかな?


「待ってたよ。待ちくたびれたぐらいにはね」

「ネメシスの情報でも入ってきたんですか?」

「違う。迎えに来たんだよ。話ならギルドでしたっていいだろうにダンジョンでやるもんだから心配してたんだよ」

「うっ……すいません……」


 でもまあその代わり表で話せないこと話せたし……許してほしいかな。


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