第24話 

「……モンスター少なくないか?」


 俺たちがダンジョンの異変に気付き始めたのはそんな俺の気づきからだった。


「私たちが駆け下りて来たからではないでしょうかねぇ」

「いや、最短距離を最速で下っていったとしても下層に来るまで一度も遭遇しない可能性はモンスターの生息数、出現場所を考慮するとかなり低いはずです。ただ可能性があるとするなら──」

「直前に誰かが通過したということですよねぇ」


 俺は首を縦に振った。


「あの魔王がいるってことでしょ? 早くいきましょうよ!」

「一回待てって。おかしいと思わないか?」


 エリーが首を回し周りを見渡した。


 そう。異変はモンスターだけじゃない。

 何も変哲もないダンジョンの岩壁、天井、空間全てから色で表せば黒に近い紫のまがまがしくまとわりつくような魔力が滲み出していた。


「うーん? 私には何も異変はないと思うんですけどぉ」

「魔王の魔力よねこれ」

「そう。だけどダンジョンに染みつくぐらい放出されているのははっきり言って異常事態だ。魔王時代のパンドラは魔物と同じ魔力で身体を構成していた。だが今身体自体は人間だ。保有する魔力量にも限りがある。いくら元魔王と言えどここまでの量を放出してしまったら残存魔力は多くはないはず」

「だったらなおさら早く助けに行かなきゃじゃないの?」

「あいつが普通の人間だったらそれが正しいよ。でもあいつは魔王だ。魔王がピンチになるとどういう行動をするかエリーなら知ってるだろ?」


 あちらでの最後の記憶がよみがえる。


 最終決戦にて苦戦しながらも魔王パンドラを追い詰めた時、魔王は爆散した。

 突き詰めて言うとあれは爆散したとは言えないかもしれない。だが人型の姿が霧散したのは事実。

 魔王という人型をやめたパンドラは知性ある魔力塊となり周囲、魔王城を魔力で多い一種の固有結界を作り出した。


 ──『パンドラの箱』


 人間の精神に作用し絶望感に溺れさせるシンプルだがある意味魔王らしい結界。


「『パンドラの箱』の気配がするんだよ。このダンジョンから」

「理解したわ。煙、あなたは先に戻りなさい」

「ごめんなさい。何もわからないんですけどぉ? 説明だけお願いできません?」


『パンドラの箱』の効果を説明すると煙はなぜか自信満々に胸を張る。


「精神操作系なら任せてくださいよぉ。私の研究内容知ってますぅ? 『精神操作』系統ですよぉ?」

「あの結界、科学は超越してると思うんだけど大丈夫?」

「私のスキルが使えるのであれば問題ないかとぉ」


 そう言うと煙は煙草の煙を俺たちへ吹きかけた。

 むせかえるような匂いの煙は俺たちの顔のまわりでしばらくとどまると霧散した。


「私の『魔霧』は『筋斗煙きんとえん』だけじゃないんですよぉ」


 煙は煙草を吸うともう一度吹きかけた。

 煙の口から漏れ出た紫煙は1本のハリセンに変化し、彼女の手に収まった。

 ニヤリと笑みを浮かべると煙は腕を振りかぶり思い切り空を叩いた。


「せい」

「いったぁ!?」


 ハリセンは空を切っただけで俺に触れていなかった。


「ケイくん私の煙を吸ったでしょう? その煙を媒体にして神経そのものに「痛み」という感情を伝達したんですよぉ。これがあれば大丈夫だと思いますけどぉ?」

「まあ大丈夫じゃない? あっちの世界よりは魔力量も小さいし効果も弱いでしょ」

「その代わり自分の身は自分で守ってくださいね」

「了解ですよぉ」


 最終確認を経てボス部屋の扉に手を駆ける。

 恐る恐る開いていくとダンジョン内で感じていた泥水のような魔力が洪水のように溢れてきた。


「やっぱいたか」


 ボス部屋の中心に横たわるベヒーモスにちょこんと不安げに座っているのは、パンドラ。

 服もところどころ破れ血が滲み、髪もぼさぼさで乱れ切っている。


「来るな」

「スマホ。返しに来た」

「話を聞けバカ勇者」

「じゃあ理由を聞かせてくれ。お前の話を聞くから」

「そういう意味ではない!!」


 彼女の叫びと呼応するように魔力の箱がこちらに襲い掛かってくる。


「あっぶないな……! ケガするんだけど」

「なぜ避ける!」

「よけないと死ぬだろうが!!」

「我の結界も何もお前には勝てないとでも言いに来たのかっ!!」

「あーもうごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ」


 次々に迫りくる箱を切り裂きパンドラへ肉薄する。

 目を見開く彼女の襟をつかむとそのまま押し倒した。


「いいか。この際言ってやる。俺はあんたの前世なんて知らん」

「馬鹿言え! 我とあれだけ……」

「さあな転生前のことは置いてきた」

「そんなわけ……」

「俺たちは敵じゃないって言ってんだよ。一人で抱え込まないで話せ」


 俺たちは仲間──こんな馬鹿らしいことでも彼女の心には伝わりにくい。

 魔王で、対等な存在が俺しかいなかった彼女には部下、ライバルはいても「仲間」はいなかった。


 こいつの持っている情報も欲しい。だがそれよりも彼女がここまでふさぎ込む原因が知りたかった。


「ひとまずどけ! 重い!」

「逃げるだろ?」

「逃げん! 我は逃げん。全部話すから降りろ! 重い!!」


 一応逃げた時の対策として剣を構えながらパンドラを解放した。


 パンドラは一瞬目を泳がせた後、ゆっくりと口を開いた。


「ったく。話せばいいんだろ……結論から言う。妹の件、あのがしゃどくろ、女神の妹じゃぞ」


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