第22話
「黒崎さんいます~?」
新宿ダンジョンから帰還しギルドを訪ねたが、奥のデスクにも応接室にも人の気配がない。
無人で開放するには機密資料が多すぎると思うんだけどな……。
後探していないのは最奥にある部屋。いつも煙が出てくるのは見ているがまだその中には入ったことがない。
「黒崎さーん、煙でもいいから出てきてくれないですかねー?」
「奥にいない? 人の気配はあるわよ?」
ドアノブに手をかける。
何の抵抗もなく回ったそれをゆっくりと慎重に押してゆく。
「研究室か」
目に飛び込んできたのは無機質なライトに照らされたフラスコなどの実験器具。
棚には茶色や白の瓶に詰められた薬物が並び、壁際には様々な大型機器が所狭しと並んでいた。
それらに触れて壊さないよう慎重に足を踏み入れていく。
「何してんすか」
部屋の中央、書類やビーカーが散乱していた机の下にそいつは寝ていた。
「……んぅ? あさ?」
「時間的には昼前っすね。おはよう煙」
床に直に寝ていたせいで白衣が埃まみれになってしまっている。
起き上がった煙はだるそうに机にもたれかかるとタバコの火をつけた。
「今日はどうしたんすかぁ? 乙女の部屋に無断で入る者じゃないっすよぉ」
「それはゴメン。んで黒崎さんどこにいるか知ってる?」
「わからないっすねぇ。寝てたんで。何か相談でも?」
「パンドラがスマホ忘れていってさ。あいつがどこにいるかわからないかなと思って」
煙は吐き出した煙で矢印を作ると部屋のドアに向けてはなった。
「向こうで話しましょうかぁ。ここは狭いし危なくなりますから」
煙は半ば身体を引きずるように部屋を出ると、黒崎さんのデスクにドカッと座りPCを起動させた。
「落とし物ならギルドに届けるだけでいいはずなんですけどぉ、何かわけがありそうですねぇ」
鋭いな。さっきまで床で寝てた人とは思えないな。
煙はソフトを立ち上げ的確に文字を打ち込んでいく。
キーボードの上で踊っていた指が制止するとモニターにはパンドラの顔写真やデータと共に地図が表示されていた。
「最後にいたのは……葛飾ダンジョンだねぇ」
「葛飾……?」
「私たちが行ったところよね?」
「手掛かりが見つかったところだな」
俺たちと遭遇し、焦って逃げた先が俺たちが手掛かりを見つけたダンジョン。
「偶然だとしたら結構なミラクルよね」
「まあどちらにしろ俺たちはパンドラに会いに行くだけだ」
「行くなら早めに行った方がいいっすよぉ。ダンジョンに入ったの3時間前くらいなんでねぇ」
すぐに荷物をまとめギルドを出ていこうとすると煙から声がかかった。
「私も行かせてくださぁい。暇なんでー」
「ギルドはどうするんですか。無人はまずいと思うんですけど」
「私がいたって無人と同じですよぉ」
それもそれでどうなんだよ。
俺たちの返事も聞かず煙は白衣のままブーツをはき始めている。
「戦闘もできますからねぇ心配しなくて大丈夫ですよぉ。これでもAランク探索者ですからぁ。おとととと……」
「ふらつきながら言われても説得力ないですって」
「いかんせん寝不足でしてぇ」
眼に隈をたたえて壁伝いに歩く様からは強力なモンスターと戦っている姿なんて到底想像できない。
でもAランクっていう信用はあるんだよな。
見た目的にも筋力はないだろうしエリーみたいな援護型か魔法特化型の人なんだろうな。
どうせ前線は俺になる。なるべく倒し損なわないようにするか。
煙は強い日差しに顔をしかめると深くタバコを吸い、煙を吐き出した。
「『筋斗煙』」
煙が吐き出した煙は目の高さほどでとどまり絨毯のように薄く広がった。
「ちょっとショートカットしましょ」
「これに乗るんですか?」
「そうですよ? ほら」
すでに煙は何事もないように煙の絨毯に腰かけている。
恐る恐る俺も煙に腰かけてみると少し沈んだほどでちゃんと煙に座ることができた。
「これが私のスキル『魔煙』ですよぉ。煙を自在に操れるんですぅ」
「ほんとに大丈夫? 二人乗りとかじゃないわよね?」
「大丈夫ですよぉ」
恐る恐るエリーが乗ると『筋斗煙』は浮き上がり葛飾ダンジョンに向けて発進した。
「ちょっと! 落ちないでしょうね!?」
「おとなしくしていれば落ちませんよぉ」
「脅さないでよぉぉ!!!」
エリーの悲鳴が都心のビル群に吸い込まれていった。
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