第20話 無数の協力者

「はいこんにちは~ケイ・カネシロです」


 ヒュドラを討伐した翌日、俺は相も変わらずダンジョンに潜り配信をつける。


《こんシロ~》

《おはよ》

《休む気ないなお前》

《やっぱ連日配信はバグってんのよ》


「今更なんだけど他の人って毎日とか配信してるわけじゃないの?」


 異世界にいた時なんてそもそも切羽詰まった状況だったってのもあって1日も休んだことはなかった。

 それに俺の性格上何かクエストとかこなしていないと落ち着かないんだよね。


《普通の人間の体力で連日モンスターと戦えると思う?》

《あの魔王パンドラちゃんでも1日おきに配信してるぞ》

《あんたが異常なだけだよ》


「休みなさいよ。こういう時こそ休息が大事なんだから。身体を壊したら元も子もないでしょ」


 そうエリーにも言われる始末。


 でもネメシスの件もステンノの妹の件もようやく進んできたし今休んでる暇はないんだよね。俺が動かない限り解決しないのなら当然俺が動くしかないでしょ。


「もちろん不調だったら休ませてもらうけどそれ以外で休ませてもらうことはないかな。大きなものも控えてるしね」


《ちゃんと休めよ》

《まあ元気にしてればそれでいいよ》

《エリーちゃん泣かすなよ》

《大きなもの?》

《連日配信はその大きなもののため?》

《コラボ?》

《大型企画でも考えてるの?》


「計画してるものが一つあってね。みんなにも協力してもらいたいんだよね」


《視聴者参加型!?》

《さすがにダンジョン配信を視聴者参加型でやるのは無理だろ。そもそもケイと同じエリアに行ける人間が少なすぎる》

《ついにダンジョンから出るの?》


「いや、考えてるのはみんなに自分の地元だったりよく通ってるダンジョンの変異神域の情報を教えてもらいたいんだよね」


《それだけ?》

《大型という割にはしょぼい》

《そもそもこの視聴者に探索者が何人いるんだ? 多くはないと思うけど》

《探索者の人~?》

《ノ》

《ノ》

《ヘ》

《ノ》

《案外たくさんいて草》


「ちゃんとみんなにもメリットはあるよ。変異神域で討伐したモンスターの素材はその地域に寄付しようとは思ってるんだけど、情報くれた人は最優先で素材提供しようかなって」

「ヒュドラだったらヒュドラの素材をあげるってこと?」

「そういうこと。もちろん下処理してすぐにでも装備に加工できる状態で渡そうとは思ってる」


 俺はそもそも喚装で装備は出せるしお金も配信があるおかげで困ってないし神域のモンスターを討伐したところでアイテムボックスの肥やしになるのが関の山だ。


「こういう視聴者の協力が必要な企画は初めてだからこれでいいのかわからないんだけどみんなはこれで大丈夫?」


《むしろ情報提供だけで素材くれんのはでかすぎる》

《逆にその素材を扱いきれるか不安なんだけど》


「ただ俺に連絡した後、ギルドにも連絡してくれよ。そこだけは規則を守ってくれ」


 そもそも変異神域が確認された場合、迅速にギルド本部へ報告することが規則になっている。それに神域の事後処理はギルドの担当になっているからこの約束だけは守ってもらおう。


《探索者以外の視聴者に対しては何かないの?》

《素材もらっても何もできないんだけど》


「そっか、素材売れば金になると思ったんだけど」


《素材は探索者じゃないと売却できないぞ》

《そういうとこは異世界人のまんまなのかよw》

《転売防止。ヤのつく人の資金源根絶のため》

《もらってもでかすぎて保管に困るしな》


「なら私が加護でもあげよっか?」

「そんなサインみたいにホイホイ渡していい物じゃないだろ」


 エリーと言えど女神の加護ともなれば状態異常無効とか千里眼とか明らかに人知を超えた能力を一般人にも付与できてしまう。

 それをおいそれと視聴者に配って天界から怒られたりとかしないの?


「そんなに強い加護は与えないわよ。私も怒られたくないし。『ケガ・病気になりにくくなる』くらいのだから」


《本当?》

《そもそもエリーが女神なのが信じられない》

《女神(笑)》

《嘘乙w》


「なっ、私は正式な女神なんですけど!? ケイくんだって私の加護受けてるんだからね!?」

「まあ、こいつが女神だと信じられる人だけ参加してくれ」


 まだ怒っているエリーは放っておいてダンジョンを駆け下りていく。


《そういえばなんで神域の情報が必要なの?》


「ああ、そうか言ってなかったな。ギルドからの情報で行動してもいいんだけどね。ネメシスの手掛かりが神域にあるはずだから迅速に対処していきたいんだな」


 取り逃がしたのは俺の責任。他に被害が出る前に俺が対処しなければならない。表向きの理由として視聴者にそう説明していく。

 裏の理由はもちろん妹の手掛かりを探すため。


「あの女神は神域に現れてた。でも神域の中でしか現界できないとは限らないでしょ?」


《それはそう……なのか?》


「まあそんな感じだから長期企画だと思って協力してくれ!」


 ──ボォォン!!!


 ボス部屋内部からダンジョン全体を揺らすような爆発音が響いた。


「ゆ、勇者!! 助けてくれ!!!」


 がしゃどくろに両腕を掴まれて捕獲された宇宙人みたいになっているパンドラが悲痛な声で叫んだ。


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