第14話 Sランク会議
「ぐすっ……ぅええ……」
事務所のソファに顔をうずめパンドラが嗚咽を漏らす。
俺に2度も負けたのが相当悔しいんだろうな。
俺に負けるまでモンスターの女王として絶対的な地位にいたから余計負けることが嫌なんだろうと勝手に推測してみる。
配信を閉じた後、俺たちと黒崎さんは応接用のテーブルで今回の総括を行っていた。
「……何があったのか聞いていいのかしら?」
「どうせ配信見てたんじゃないすか?」
「あら? 何のことかしら?」
黒崎さんは何食わぬ顔で紅茶に口をつける。
「スマホ、画面が見えてますよ」
テーブルの上に置いていた黒崎さんのスマホには俺の配信終了画面が表示されていた。
何事もなかったかのように彼女はスマホを回収する。
しかし、かがんだ瞬間に見えた彼女の耳は真っ赤に染まっていた。
「そ、それで今後なのだけど、あなたたちには方針決定会議に出てもらいたいの」
「ギルド全体のですか」
「ある意味そうね。どういうものか知ってる?」
俺とエリーがそろって首を横に振ると黒崎さんは足を組み説明を始める。
「方針決定会議は日本国籍のSランク探索者として認められた4名が参加する会議よ。今後の変異神域の対応や未踏破ダンジョンの調査、各ダンジョンの見回りなどの方針を決定するの。この会議によって各ランク帯の適正ダンジョンや立ち入り禁止区域が変更されたりもするからギルド全体に影響力はあるわ」
「俺たちはまだこの日本についてよく知らないと思うんですけど」
まだこの日本に来て数日の俺たちが参加しても特に何も発言できない気がする。
「ネメシスのこともあるし、あれもいるからね」
彼女が親指後ろを示す。
そこにはいつのまにか現界していたステンノが泣きつかれて眠っているパンドラを膝枕していた。
「あなたたちの代わりに慰めていたら寝てしまったわ。お代は彼女の魔力をもらったから十分よ」
「ケイくんから離れられないとか言ってた気がするんだけど?」
「あら? そんなこと言ったかしら?」
「言ってたでしょ!!」
話が違うといきり立つエリーには目もくれずステンノはパンドラをそっと寝かせて俺の隣に座った。
エリーが俺越しにステンノを睨んでいるが無視しておく。
「二柱の現界にケイくんが関わっている以上、出ないという選択肢はないよ」
堅苦しい会議とか異世界でも苦手だったのに何でこう強制的に出させられるのだろうか。
そもそも庶民高校生はマナーのいる場にいることの方が少ないのだ。
つまり、怖いから行きたくない!!
何とか断る口実を作れないかと頭をフル回転させていると黒崎さんの口から助け船に見せかけた終了宣告が投げかけられる。
「大丈夫さ。Sランク同士の話し合いに礼儀も何もないよ。あいつらは根が戦闘狂な奴らばかりだからね。マナーを覚える暇があったらダンジョンに潜りたいって言う奴らだから安心して来てくれ」
「別の意味で怖くなったんですけど」
普通の会議かどうかすらも怪しくなったな。まあ決闘を挑まれても答えるだけだし、どうせ何を言っても断れそうにないし行ってみるかぁ。
「はぁ……場所はどこです?」
「霞が関の本部だ。受付にギルドカード見せれば案内してくれるから安心してくれ」
「持ってないんで安心できないんですけど」
「あれ? あげてなかったか。ちょっと待っててくれ」
やっぱこの世界にもあったかギルドカード。この数日ギルドカードなしにダンジョンに潜ってたのはおかしかったんだな。逮捕されなくてよかったよほんと。
黒崎さんがデスクのPCを操作しに席を外すと、それまでおとなしく俺の両端に座っていた女神たちが騒ぎ出した。
「ケイくんの隣に座らないで?」
「どうして? 片方は空いてるじゃない? それに彼はあなたのモノじゃないわよ?」
「私はまだあんたを信用してないから!」
「でもケイくんは信用してくれてるわ。ねぇ?」
こっちに話を振らないでほしい。俺がなにを言おうと一面地雷原なのは間違いないのだ。
それに信用してるかと言われても微妙と答えるしかない。今俺に危害を加えようとはしていないのは理解できるのも事実だしこれから何をしでかすかわからないのも事実だ。
「……仲良くしよう?」
「できないから言ってるの!!」
「この泥棒女神と仲良くできるわけないじゃない!!」
「だったらもう外で決闘でもして決めればいいんじゃないですかねぇ!?」
決闘という言葉に2人の目が見開かれる。
「泥棒女神、外出なさい」
「わかったわ。失格女神、負ける準備はできてるの?」
いがみ合いながら出ていく2人(2柱?)を脱力して見送っていると黒崎さんから声がかかる。
「カードできたぞ。ってあいつらは?」
「外です」
外から聞こえる衝撃音に黒崎さんは苦笑いを浮かべるとテーブルに名刺サイズのカードを置いた。
「これがケイくんのカードだ。Sランクってことになってるからよろしく」
「(仮)でなくていいんですか?」
「ギルドマスターが大丈夫って言ってんだから大丈夫さ。これで会議に出れるな」
「場所わからないんですけど」
「む、そうか……なら」
黒崎さんはスマホを取り出すと何やら電話をし始めた。
時々、たのむよ~とせがんでいるような口調になったり、真面目な口調になったりとあの手この手で交渉しているようだ。
「話はつけておいたからすぐに飛んでくるぞ」
「ありがとうございます? すぐに飛んでくる?」
「ええ。お待たせいたしました」
俺の口から声にならない悲鳴が漏れる。
疑問を口にした次の瞬間には、黒崎さんの後ろに家電量販店でぶつかったあのスーツの男性が立っていたのだ。
少しやつれた顔に背中を丸めた姿はまさしく日本の社畜のよう。
「電話がありましたのですぐに飛んでまいりました。今回案内を務めさせていただく人事部探索者課探索者組合長の
「お、おねがいします……」
空澄さんの口から呪文のように出る格式ばった言葉に俺はただ固まった体でぎこちなくお辞儀をするしかなかった。
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