第5話 神にミニガンをぶっ放した女
「神がいるわけないじゃない。神々が限界するのにどれだけの魔力が必要だと思ってるのよ?」
「実際私はこの目で神を見てる。コメント欄に聞いてみな」
黒崎さんの真剣なまなざしに緩み切っていた背筋に冷たいものが通り抜ける。
《本当だぞ》
《何も間違ってない》
《全部本当》
《何も知らなさすぎじゃね?》
《さすが「神にミニガンぶっぱなした女」》
《大災害だったな》
「ほらな? 変異神域は放っておくと災害が起こる可能性がある。Sランク探索者総出で神域を解放して回ってるんだが人手が足りなくてねケイくんにはぜひ手伝ってもらいたい」
「事情は分かりました」
「ケイの守護神は私だけだからね? 変な気は起こさないでよ!?」
「起こすか!!」
エリーが右腕を抱きしめるように腕を絡ませてきた。
右腕全体にあたる柔らかな感触にリアクションしそうになったけどそれで失格女神にからかわれるのも癪なので平然を装っておく。
「んじゃここから先が変異神域ね。あとは二人で頑張ってね」
「え? 帰るの!?」
黒崎さんは何事もなかったかのように踵を返して去ろうとしていた。
「いや、モンスター倒して稼いでから戻るかな」
「いやそういう話じゃなくて──」
「あなたたちのチャンネルにもう私が出る幕はないわよ。変異種くらい簡単に倒せるでしょ?」
そう言い残すと手をひらひら振って今度こそ去っていった。
「えー、ということでこれから新宿ダンジョン中層の変異神域に入っていきたいと思いまーす」
「もっとうまくできない?」
「素人に求めんな」
一応の挨拶をし、ゆっくりと神域内へ足を踏み入れていく。
カメラ代わりの魔鏡はエリーが抱えている。変異神域全体に黒ずんだ霧がかかっており下手するとカメラともエリーとも散り散りになってしまう危険性があった。
霧が濃くなり、増した圧迫感が鼓動のリズムを早めていく。
ねっとりと全身に絡みついてくるのも気持ち悪い。
「──いたわ。右手の方!」
周囲を魔力で索敵していたエリーが指差した。
彼女をその場に残し、その方角へ進むとうっすらと霧の向こう側に俺の身の丈以上はある影が現れる。
こちらを睥睨する鋭い視線まで感じるほどの存在感を放つ獣は一切動かない。
剣を抜き、いつでも迎撃できる体制で影が影でなくなる距離まで詰めていく。
「……ライオン?」
「ネメアのライオンよ。多分サーベルタイガーの変異種」
「なんで来たんだよ!?」
置いてきたはずのエリーが俺の真後ろで得意げに仁王立ちしていた。
霧のせいなのか気配すら感じなかった……。
「カメラマンは必要でしょ。大丈夫よあの程度のモンスターからなら身を守れるから。ネメアのライオンに魔法は効かないからね」
一歩後ろでエリーは防御魔法を展開する。
防御できるとは言っているが彼女がいる方へは攻撃を向かせないようにした方がいいな。
魔鏡もそこまでの臨場感は映さなくていいでしょ。
少し彼女から離れ剣を構える。
ネメアのライオンと呼ばれたその獣の姿はほとんど普通のライオンと変わらない。ただ牙と爪が身じろぎするだけで地面がえぐれるほど鋭く伸びており、その毛皮にはところどころに魔力が集中している赤黒い斑点があった。
こちらに気づいたのか獣も姿勢を低くする。
だがその頭は俺の頭上にあった。
「配信にはどれくらい映せばいいんだろ?」
やるからにはきちんとやらないとね。
もう始めてもいいかな。
実際今の時間もライオンがこちらをうかがっていることが分かったからこそ生まれていた。
場の空気は俺の言葉とは裏腹に身体に緊張を促してくる。
「喚装:アキレウス」
先頭の口火を切ったのは俺だった。
ライオンの足元に滑り込み、俺を押しつぶそうとする前足を一閃した。
「ギャッ!?」
自分が傷つけられたことに驚いたように後ろへ飛び上がるライオンにまっすぐに突っ込み喉元に剣を突き刺す。
少しの間ジタバタともがいていたが、それもじきに無くなりネメアのライオンは動かなくなった。
「っと……これで終わりかな」
ライオンの死体をそっと横たわらせ女神のもとでコメントを確認する。
これで配信としてうまくやれてるのかな?
《はぁ?》
《変異神域ってSランク以外立ち入り禁止の場所だよな》
《なんでそんなところで無傷で勝ってんの?》
《というよりサイトの最高fpsでも動き追えなかったんだけど。特に最初》
《おまえの環境が悪いんだろw》
《いや、こちらPCとモニター合わせて150万だが?》
《それで環境悪いは草》
《ギルドマスター倒したのもやらせじゃないだろうな》
《焔様が負けるはずない!!》
《また来たよ焔民wwww》
《すごかった!!》
《it’s amazing!!!!!!!!:¥2,000》
《海外ニキスパチャしてて草》
「あ、こんな感じでいいみたい?」
「コメントの反応は良かったわよ? ケイがかっこいいって!」
今見たところそんなコメントないんだけど。
どちらかというと呆れられているような?
「さっさと帰りましょ! もう神域はなくなるはずだし」
神域は基本核となる魔力を持っているモンスターを討伐すれば自然消滅するらしい。
通常なら。
「あら? もう帰ってしまうの? 元勇者さん?」
振り返るとそこにはエリーと同じようなローブをまとった幼い少女がコケティッシュな微笑みをたたえてたたずんでいた。
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