第22話

家に到着して俺はキッチンへと直行した。


まなは多分寝ているだろうから、静かにお粥を作ろう。


そう思い準備を始めようとしたところで、あることに気がついた。


・・・・・・お粥ってどうやって作るんだ?


思えば俺は、実家にいたときは母親がご飯を作ってくれていたし、二人暮らしを始めてからは、母親に代わってまながご飯を作ってくれていた。


俺自身が料理をしたことなんて殆どないし、最後に包丁を握った記憶は、小学生の頃の調理実習だ。


これはまずいな。


いや、今の俺にはあれがあるじゃないか。


今や周りで持っていない人を殆ど見ることがない最強の文明の利器。そう、スマホだ!


webサイトで検索すればお粥の作り方など一発で分かる!


それに、ネットに乗っている作り方なら味も美味しいだろうし、俺が考えて作るよりも絶対に良いはずだ。


そうと決まれば早速始めよう!


さて、お粥といえばお米だけど、さっきまでまなが晩ごはんを作っていたからお米はもう炊けているはず。


とりあえず鍋を用意してっと・・・・・・。


それから数十分がたち、俺はなんとかお粥を完成させた。


今回作ったのは、梅干しを使ったお粥だ。


「お粥は作り終わったし、まなの様子を見に行こうかな」


静かに寝室の方へと向かい、ゆっくりとドアを開ける。


部屋の中からは、穏やかな寝息が聞こえた。


どうやら、うなされることもなくゆっくりと寝付けているようだ。


あ、まなが起きたときにすぐ飲めるようにベットの横に飲み物をおいておこう。


そう考えた俺は、一度キッチンへと戻り、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して、もう一度寝室へ向かった。


静かに部屋へ入り、ベットの横にある椅子に腰を下ろし、テーブルにスポーツドリンクを置く。


まなは、ゆっくりと寝ているようだが、やはり熱が高いようで顔が赤く、額に汗が滲んでいた。


コンビニに行く前に用意していたタオルを水で濡らして、額にそっと置く。


まなは一瞬気持ちよさそうな顔をしてすぐに戻った。


この様子だと今日はもう目が覚めることはなさそうだ。


俺も今日はもう寝ようかな。


そう思い、立ち上がって部屋をあとにしようとしたとき、不意に袖が引っ張られた。


後ろを見てみると、まなが袖をつまんでいた。


しかし、起きている様子はない。おそらく寝ぼけて無意識に掴んだんだろう。


・・・・・・困ったな。


これを無理やり振りほどいてしまったらまなが起きてしまうかもしれない。


まあ今日ぐらいはいいか。


一日椅子で寝ても死ぬわけじゃないしね。


俺は椅子に座り直して自分の腕ごとまなの手を布団の中に入れる。


「おやすみまな、早く元気になってね」


そう言って俺はまなの頭を数回撫でて、静かに目を閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

頬になにかが触れているのを感じる。


なにかに突かれているような感触。


俺の意識は睡眠の海から浮上していった。


「んっ・・・・・・、ん?」


ゆっくり目を開けると、なぜかまなは目を泳がせていた。


「おはよう、体調はどう?まだ顔が赤いみたいだけど熱はかってみて?」


そう声をかけると、なぜかまなは布団の中へと潜っていった。


「まな?」


「お、おはようございます空くん。まだ夜中ですけど起きてだいじょうぶですか?」


布団の中から早口で話すまな。


「いやー、ぐっすり寝てたんだけど頬になんかあたってるような気がして目が冷めたんだ」


そう伝えると何故かまなは布団越しでも分かるほど大きく体をビクッと震わせた。


なんだろう。まなの様子が少しおかしい?まだ熱が下がってないのかな。


そんなことを考えながら壁にかけてある時計に目を配ると、まだ二時にもなっていなかった。


「本当にまだ夜中だね。まなはまだ寝る?あ、俺お粥作ってあるんだけど少し食べる?」


まなは布団の中からぴょこっと顔お出した。


「食べたいです。まだ体がだるいので持ってきてもらえますか?」


「ん、わかったよ。まなは熱測って待ってて」


俺は部屋を出てキッチンへと向かおうとしたが、そこで一つ疑問が浮かんだ。


「そういえば、俺が寝てる間になにかしてた?」


寝ているときに感じた頬の感触の正体が何か気になったのだ。


「い、いえ!私は何もしてませんよ?!」


何故か大声で否定してきた。これは、なにかしてきたな。

これでも一緒に住んでいるんだ。これぐらいは分かるようになってきた。


「ふ~ん?そっか。まあいいや、それじゃあお粥持ってくるね」


そう言って俺は部屋を出た。


あの反応と真っ赤な顔からして絶対になにかやっていたのだろう。でも、本人が否定するのならそれ以上は追求するべきではない。


それから俺はお粥を温め直して、スプーンと一緒に寝室へ戻った。


「熱は測った?」


「はい、三十七度五分でした。だいぶ楽になりました」


「それは良かった。もう自分のことより他を優先するなんてことはやめてくれよ?俺が心配で倒れちゃうから」


「はい・・・・・・本当にご迷惑おかけしました」


「迷惑だなんて思ってないよ、いつも色々してもらっている分をほんの少しだけお返しできたからね。でもこれからはこんな形での恩返しはしたくないかな」


まなは申し訳無さそうな顔をして、次からは気をつけると約束してくれた。


「さて、お話はこれぐらいにしてご飯をたべよ?せっかく温めたのに冷めちゃうしさ」


俺はベットの横にある小さなテーブルに持ってきたものをおいて、まなに催促をする。


「それでは、遠慮なくいただきます」


「はいどうぞ~」


まなはスプーンでお粥をすくい、ゆっくり口へ運んだ。


ひとくち食べたあと、少しの沈黙が生まれた。


まずかったらどうしようと言う気持ちから俺の心に緊張が走る。


「美味しいです!梅干しを使ったんですか?」


良かった。どうやらまなの口に合ったようだ。


「そうなんだ。お粥の上に梅干しを置くだけでもいいと思ったんだけど、どうせならお米全体に味を染み込ませたいと思って頑張ってみたんだ」


「私のためにわざわざありがとうございます。とても美味しいです」


「そんなの当たり前だよ。まなになにかあったら何でもするのが俺の役目だろ?もちろん何もなくてもするけど」


・・・・・・?何故かまなは無言でこちらを見ている。


俺、なにか変なこと言ったかな。


「まな?おーい」


まなの顔の前で手を振りながら呼びかける。


「あ、すみませんぼーっとしてました。空くん、私のお願いを聞いてくれますか?」


まなからそんなことを言うなんて珍しいな。俺が今言った言葉が原因だろうか。


「もちろん、何でも言ってよ。できる限りのことをするから」


「じゃ、じゃあ!・・・・・・その、えーっと」


「ん?どうしたの。なんでもいいんだよ?」


まなから言い出したことなのになぜか言葉が詰まっている。


やっぱり熱で頭があんまり働いていないのかな。


そう考えていたときまなは口を開いた。


「お粥を食べさせてください!」

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