第8話 木漏れ日下の薬(8、こもれび)


「……面目ない」

「晃さんは頑張り過ぎなんです。ちゃんと寝れてます?」

木漏れ日の下。

菫はベンチに座る自分の膝に頭を預け、ぐったりと横たわる榊を、冷たいタオルとペットボトルで冷やしている。軽い熱中症だった。

「去年もぶっ倒れた気がする。この寺で」

榊の言葉に、菫は顔を上げて本堂の方を見た。

「びっくりしましたよ、電話貰った時は。飛んで来たんですからね」

呆れたように菫が言えば、榊が笑う。

「助かった。あの時も。今も」

息をついて、菫は扇子で榊に風を送る。涼やかな風が、榊の前髪を揺らす。

「もう少し休んで落ち着いたら、家に帰りましょう。今夜泊まりますしご飯も作りますから、ちゃんと休んでください」

「菫がいてくれるなら寝れそうだな」

菫は途端に呆れたような表情になる。

「そんなこと言えるなんて、元気じゃないですか」

「手厳しいねぇ〜俺の恋人は。体調悪いのにー」

笑う榊の頬を、菫が優しく撫でる。

「確かに。恋人が具合悪いのに、こういうのも悪くないな、と思っている私は、手厳しくて嫌な恋人かもしれません」

榊の目が一瞬丸くなる。だが直ぐに、優しく細められた。

「俺も同じこと考えてた。もうちょいこのままが良い」

「水は飲んでおきましょうか。私はどこにも行きませんし」

淡い日差しに照らされた菫が冷たい水を翳すと、榊は声を出して笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る