第6話 化身の面(6、アバター)
鬼の化身、と言われているその面を、
兄・
榊は昼間、ここの店員をしている。普段の仕事は、品物の整理やら棚卸しやら。ほとんど業務が無い。客も来ない。それでも、今日は仕事らしい仕事がある。この面を見張ること。
(兄貴は何でこんな物騒なもん机に裸で置いて出られんだ?)
榊は頭に手をやり、一人唸る。この店には、様々な曰くつきのモノたちが集まることが多い。全て管理しているのは兄だが、店員である以上、榊もある程度は把握している。少し出る間、やって来たばかりのこの面を見張っといて、と兄に頼まれ承諾したが、一目で分かる。これはヤバい。個人宅にあったらしいから、お祓い等の対処は一切されていないのだろう。禍々しいオーラを放ち、仕事で無かったら帰ろうかと思ったくらいだ。素人が彫ったのかというくらい粗い木彫りのそれは、鬼に見えるかと言うと微妙だが、迫力と圧が強い。血を連想させる赤が斑に散っているのも恐怖ポイントだ。見つめることしか出来ずにいると、電話が鳴る。兄だ。
“晃?ごめんね、今帰ってるから”
「何考えてんだよ、兄貴。こんな面、裸で置いてくなんて」
“え?ちゃんと白い和紙で包んであったでしょ?”
「は?」
榊は思わず面を見る。カタカタと、浮かび上がった面が振動していた。榊は凝視したまま、静かに距離を取る。
“何かヤバそうだね”
「……なる早で帰って来てくれ。こんなの一人で対処出来ん」
“もちろんだよー。あ、お土産買おうと思ったんだけど”
「さっさと帰れ」
鬼の化身のカタカタ音が、カカカカカカと、笑い声のようなものに変わったのを聞きながら、榊は溜息をついたのである。
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