第2話 透明な風鈴(2、透明)


りん、と、音がする。

大学帰りだった芽吹菫めぶきすみれは、不意に聞こえたその音に顔を上げた。音の方を見ると、古い和風の一軒家がある。その玄関の下に透明な風鈴が一つ、下がっていた。それが鳴っている。

(風鈴の音か)

ホッとすると同時に、気付いた。玄関の引き戸が開いている。菫は何の気無しに中を見てしまった。そして後悔した。

(白い着物の人……?)

暗い廊下の向こうに、白い着物姿の人が一人、立っているように見えた。ゾッと総毛立つ。直ぐ逃げ出したいのに、菫の足は動かない。青白く浮かび上がるようなその人は、ゆっくりと玄関に向かって来る。その度に、風鈴がりん、と鳴った。

(これ、ダメなやつかも)

嫌な汗が噴き出すのを感じながら、菫は目が離せない。距離が近付くと男性のように見えたが、俯いていて顔はよく分からなかった。戸に白い手が伸びる。玄関から出て来てしまう。動けない。菫が目を強く閉じた時、涼やかな風が吹いた。同時に、菫のスマホが鳴る。足が動けるようになり、菫は駆け出した。目を開けたが振り向かない。一軒家から距離を取って電話に出ると、さかきだった。

“菫か?今大丈夫か?”

こうさん……助かりました……」

“はぁ?”

息も絶え絶えな菫に、榊は間の抜けた声で返したのだ。

次の日。

菫がその家の前に来ると、通夜の最中だった。

立ち尽くす菫へ、軒下の透明な風鈴が、りん、と音を響かせた。





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