第2話 『電話』

笹川さんと俺は連絡を取りあってから二週間が経った。そのおかげで分かったことは、つとむと悟は退院して学校に復帰したということだ。



めでたいことではあったし、退院おめでとう、と言ってやりたいところではあるが、それよりも気になることがあった。



「笹川さんはいつ退院するんだ?」ということだ。しかし、そんなの本人に聞けるわけがない。もし、退院出来ない病気だったらめっちゃくちゃ失礼だし。



そんなことを思っていると。



「…おーい、洋介。飯食おうぜ」



と声をかけられた。

振り返るとそこには、祐介が弁当を片手に持ちながら立っていた。

そういえばもうお昼か……ぼーっとしてたからな……



「……例の彼女さんの事でも考えてたか?」



祐介がそう言いながらニヤニヤしてくる。……うぜーな……まあ、当たってんだけどさ……



「お?無言になったとゆうことは図星かぁ~?」



「うるせーな」



「え?何々?何の話?」



「洋介の彼女の話」



サラッと祐介が言う。すると、それに周りが騒ぐ。……周りとゆうか二人だけなんだけど。



「え?マジ!?中村彼女いんのかよ!」



「マジかよ!あの鈍感で馬鹿な中村に彼女がいるとか……」



……鈴木と佐藤がそう言って騒いでる中、俺は黙々と弁当を食べていた。

だってこいつらの言うことをいちいち真に受けてたらキリが無いし



「ん?洋介、電話鳴ってね?」



「ああ、ホントだ。誰からだろ……」



スマホを見るとそこには『笹川』の文字が表示されていた。………笹川……笹川さん!?え……?何で?こんな時間に電話をかけてきたことなんて今まで一度も無かったぞ……?



「あれー?もしかして例の彼女ー?」



鈴木が揶揄うように聞いてくるし、周りの奴らもこっちを見ている。

やめてくんないかなそういうの……俺はそう思いながら廊下へと出た。



そして、人のいない場所まで移動してから電話に出た。



「はい、もしもし」



『……お前が中村洋介か?』



……笹川さんじゃない……?!しかも男の声だし!! 俺が困惑していると男は続けて言った。



『お前――うちの妹を誑かしてるらしいじゃねえか』



た、たぶら……?てゆうか、この人なんなんだ……? いきなり妹をどうこう言われても意味わかんないし……。



「あ、あの……?どちら様ですか…?」



恐る恐る聞くと、男は少しイラついた声で答えてくれた。



『どんな男か知らねーがうちの妹に手を出すんじゃねぇ!』



………手を出すとは…?どういうことだ……?全く話が読めないんだが……。

とりあえず、誤解を解くために説明しようとした時だった。



『お、お兄ちゃん……!勝手に電話掛けないでよ……!!』



後ろからそんな声が聞こえたかと思うと、電話は切られた。一体今のは何だったんだよ……。訳がわからず呆然と立ち尽くしていたその時だった。



「ちょっと、あんたさっきからうるさいんだけど」



突然背後から女の子の声がしたので振り向くとそこには腕を組んで立っている松岡がいた。……うるさくしないように、ちゃんと人がいないところに移動したはずなのにどうしてここにいるのだろうか…。



「ここは基本的に空き教室だけど、次の授業に使うのよ。だから静かにしてくれるかしら」



ここの教室、次の授業に使うの……?それは知らなかった……。でも、確かに次の時間は移動教室だもんなぁ……。



「悪い。次からは気をつける……」



まぁ、これに関しては俺悪くはないけど一応謝っておいた方がいいだろうと思い素直に謝った。



「まぁ、いいけどさ。……中村くんもさっさと行かないと遅れちゃうんじゃない?」



時計を見るともうすぐチャイムが鳴る時間になっていた。…え?やばいっ!遅刻したら先生に怒られるじゃん!!俺は慌てて走り出した。




△▼△▼




その日の放課後。またもや、笹川さんの電話が来た。また例の男だったらどうしよう……と不安になりながら出ると――。



『あ、あの……』



小さい声でか細く、今にも消えてしまいそうな声が聞こえてきた。この声は……。



「………笹川さん?」



この声の主は間違いなく笹川さんのものだった。スマホの機械的な声じゃなく、初めて会った時のような弱々しい声をしていた。



『あ、あの……お昼のときは兄がごめんなさい……』



声が弱々しく、申し訳なさそうに話す彼女はビデオ通話をしていないのにまるで小さくなってしょげている子犬のように見えた。



「ああ……大丈夫だよ。笹川さんこそ声大丈夫なの?いつものアプリの音声じゃなくて電話してきたみたいだし」



『そ、そうですね……でも……謝りたくて……』



今にも泣き出しそうなほど小さな声で喋っている笹川さんがあまりにも不憫で可哀想で思わず口を開いた。



「大丈夫だよ。笹川さんが謝ることじゃないし。それに俺は全然気にしてないよ?」



『ほ、本当ですか……?』



「うん」



即答すると、安心したのか電話越しにホッとしたような息遣いが聞こえてきた。



『よ、良かったです』



そう言いながら笹川さんは笑った。

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