第21話 「禁足」の意味
船が禁足の地に着くと、カギカズラは動けるようになった人達を連れて、地面へと降りて行った。
僕には、シダが見張りに付けられた。
もくもくと船のゆかのふきそうじをする僕に、うれしそうにシダが話しかける。
「お前のおかげだぜ、アダン。こんなに仲間が元気で楽しそうにしているのはひさしぶりだ」
それを聞いて、まだ満足に動けない海賊たちも笑った。
「禁足の地から走ってにげようなんて考えるなよ。前にげた連中が使った細長い道を使わせないように、あっちに十一人もカギカズラさん連れて行ったんだからよ」
僕が話すとだまってしまっていたシダが、今度は僕がだまってそうじをさせられて、シダがペラペラと話せるという今の状況が楽しくて仕方ないらしい。
僕は桶の中の、灰をうすく混ぜた水に布をしみこませてゆかをふく。
そして、部屋のゆかを一通りふいたら部屋を出る。「おい、ここまだよごれてるぞ」というヤジを無視しながら戸を閉めた。
「あ、そうだ。あと夢魚お前に渡す約束、あれナシな。ツワブキさん死なせたんだから当たり前だよな。お前はずっとこの船でそうじな。あと、モダマのお友達してろよ、いいな」
部屋を区切る小さなろうかで意気ようようと、シダが宣言した。
海賊は、特にシダは、ハデでゴテゴテした服で刀をかくす。
刀をかくすのは、確かにとても良い事だ。相手に武器があるのをかくせるので、油断させられる。
「おい、返事し」
僕は、いきなり桶と布をろうかにたたきつける。肩を動かしてアビを、おどろいているシダの顔に飛びかからせる。船の中でもう一回り大きくなったアビの体は、シダの視界全てをおおった。
そして、僕は、船の中では決して体からはなさなかったカバンからナイフを取り出して、シダのうでに思い切りつきさした。
さすが、茶色のヤシの実さえスッパリ切れるナイフだ。何か固いものに当たった感触があったが、それでも魚の肉のように、シダのうでに、ザックリとささった。
アビをふりはらわれる前にナイフをぬき、そして今度はシダの太ももにもつきさす。
シダが声を上げる前に、ナイフを手早くぬいて、アビをはなし、口にそうじでよごれた布をつっこんだ。
アビも今までの僕の様子に思うところがあったらしい。シダは額からもアビの歯形ぴったりに血をダラダラたらしていた。右手にはアビのかぎづめがささったあとが出来ていた。
体の左側の手足をさされて立っていられなくなったシダの顔を思い切りけりとばして、僕は調理場へ走った。
調理場で布ぶくろを手にして、夢魚の部屋へ走る。
夢魚の部屋にいたモダマを思い切りつきとばして、夢魚四匹全てを布ぶくろにつめこんだ。
「何するの、やめて!」
うでをつかんだモダマに、僕はこしに下げたナイフをぬいて刃先を見せつけた。シダの血がまだ付いているナイフを見て、モダマは「ひいっ」と悲鳴を上げた。
「僕は約束を守った。お前たちは守らなかった」
それだけ言って、もう一度つきとばす。泣き出したモダマを無視して部屋をかけ出す。
しょっちゅう通っていた物置。そのおくのおく。ほこりをかぶった本当に小さな木船と、かいを引っぱり出した。
窓から木船を海に投げ入れ…ようとして、初めて窓の向こうが陸地だと気付く。この窓は、禁足の地にぴったりと横停めされた側の窓だったんだ。
あわてて窓を閉め、物置の戸の前に重くて大きなものをあるだけ重ねる。
しまった。どうしよう。
ここまで来て自分のうかつさに腹が立つ。
戸の前にあらゆるものを投げるように重ねる。天井近くまで。戸を開けられないように。ものを重ねていると戸の向こうからの声が聞こえた。
体がまだしんどい病人達も事態をすでに理解しているらしく、ざわざわと怒りの声が上がっていく。
「くそっあいつどこ行った」
「シダさんをこんな目に合わせやがって」
「絶対ゆるさねえ」
モダマの泣き声も聞こえた。
「うわーん!おとうさん!血が!おとうさーん!」
シダはモダマの父親だったのか。確かに二人とも赤毛だったな。あの若さとモダマの年を考えると、僕より少し年上のころに出来た子供という事になる。
「カギカズラさん、あのガキかくれました!シダさんさして、どこかの部屋にいます!」
開いた窓からさけぶ声。それに応えるカギカズラの怒声。
「おい、この戸、開かねえぞ!ここじゃねえのか!?」
この部屋の戸の向こうから、ゼエゼエとあらい息といっしょにはき出される大声。
ドンドンと戸をたたく音。大きくなっていく。
「どけ!」
海賊船に戻ったカギカズラの声。戸に体か何か重いものをたたきつける音。
重ねた物が少しずつくずれていく。必死に戻そうとするが、それ以上にくずされていく。
どうしよう。
どうしよう。
その時だった。
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずず
いきなりごう音と共に、ゆかが、船が、海が、地面がゆれた。
何が起こっているか分からない。ゆれはいつまでも止まらない。
アビと夢魚の入った布ぶくろを体の下に入れて、うずくまる。
戸のすぐ向こうから悲鳴交じりの怒りの声が聞こえる。
「くそっこんな時に!」
「ちくしょう!ちくしょう!」
「禁足の地に戻るぞ!そこで地面にはりつけ!」
「だめだ!船の向きが変わっちまった!!」
戸の前に重ねた重い物達が、ゆれで僕達の方へなだれこんで来た。
アビとふくろとかかえて、窓までにげる。ゆれの中、走れずもたつく足にあせる。
助けて。助けて。カミエ様。
僕は初めてカミエ様にいのった。
信仰の意味が、初めて分かった。
ゆれで窓がバンっと音を立てて開く。船の向きが変わり、窓の向こうには高波まみれの海面が広がっていた。
もう、今しかない。これしかない。
僕は、木船にかいを乗せて、窓から投げ下ろした。
布ぶくろのひもを首にかけ、アビのかぎづめを僕の服にさして食いこませる。
そして、カミエ様!と心の中でさけびながら、窓から海へと飛び降りた。
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