ノブ ~戦国時代で「ノブナガ」になった男~
花藤 剣
第1話 プロローグ~追う者と追われる者
西暦2150年。
人類はいくつかの大戦を経て、ほとんどの都市や文明が崩壊した。その結果、人口は半分以下に減り、資源は枯渇し、環境は荒廃した。また、100年以前の記録データの殆どが大戦で消失してしまったため、人類は過去の科学や文化、そして歴史までも忘れてしまっていた。
そんな危機的状況から脱するために、生き残った国家間で協力し合うことを決め、世界連邦政府が発足したのである。
政府は60か国のエリアに分割し、それぞれに「人工知能」を配置することで世界をAI統治国家に変えた。人工知能は人々の生活や教育、医療、経済、防衛などあらゆる分野を管理し、平和と秩序を保った。その結果、世界は目覚ましい進化を遂げていった。
日本は『エリア9』と呼ばれるようになった。
政府は日本の伝統や文化を否定して「漢字」「ひらがな」は廃止され、「ローマ字」「カタカナ」表記が許された。そして高度な技術と機械を生み出す一大産業地区として発展した。
しかし、すべての人が政府の支配に従っているわけではなかった。
この日本にも『イレイジャー』と名乗るレジスタンスがいた。彼らは政府のテロ対策組織『ATLAS(Anti-Terrorism League of Allied States)』と対立し、人々を統治から解放するべく戦い続けていた──。
◆◇◆◇◆
すべてがネオンにより造り出された都市の灯りが遠く霞んでみえる深夜0時、工場や研究施設が建ち並ぶ海沿いの産業道路を数台のバイクと車が猛スピードで走り抜け、上空には2台のヘリがライトを点けて追跡している。
その日は雨の降っていない、雷鳴だけが響いているどこか異様な夜だった……。
「青の車にはレブルNo.008、赤いバイクにはレブルNo.011を確認!!!」
「レジスタンスのイレイジャーみたいですね」
ヘリからの無線を聞いてテロ対策組織ATLASの一員であるワダ・ヒロシが助手席の右頬に傷がある男に話しかけた。
「ふん、何がレジスタンスだ! あいつらは爆弾製造から人殺し、臓器密売、なんでもありのテロ集団だよ」
チーフのゼンドウ・ジンが不機嫌な声で一喝する。
「確かにに今のボスとリーダーになってから過激になってきたなぁ。それにしても、ボスとリーダーが揃って出てくるとは珍しい」
ワダがひとりごとのように呟いた。
「ブツブツ言ってねえで、ちゃんと運転しとけよ」
ゼンドウが車から身を乗り出し、銃器を構えバイクに向け発砲した。
──激しい銃声とともに、数発の銃弾が飛んできた。そのうち1発がバイクの後部をかすめ、金属同士がぶつかりあうような音を響かせた。
「……ん……あっ……いきなり撃ってきやがった! またゼンドウの野郎だ!」
長い黒髪を後ろで束ね、耳には複数のピアスをつけている『イレイジャー』の若きリーダーであるアキバ・ノブがタンデムシートで叫んだ。
「この先の信号を右に曲がったら、斜め右の道へ!」
ノブはバイクを運転している長身で大柄な男、ヤシュケスに話しかけた。
「……」
ヤシュケスは無言でうなずき、前方を走るメンバー達と合流して、とある研究施設の敷地に入っていった。
──それから20分後、《T&T研究所》と書かれた門の前には黒い車両が集結していた。守衛所は無人で、窓ガラスにはヒビが入っている。周囲には人影もなく静寂が漂っていた。
「全員、ビーコン装着!これより銃の発砲を許可する、今日でカタをつけるぞ!」
ゼンドウは無線で部下たちに命令した。
「あれっ?この研究所はチーフの娘さんが勤めているところじゃないですか?」
ワダは隣に座っているゼンドウに尋ねた。
「そうだったか? 最近会ってないからな」
ゼンドウは素っ気なく答え、タバコに火をつけた。
「いつだったか、娘は優秀だから最年少でスカウトされたって自慢してたじゃないですか?」
「……」
ワダの言葉にゼンドウは横を向き無言でタバコを吸っているだけだった。しかし、内心ではこれから始まる戦闘で娘が巻き込まれないかと不安になっていた。
過去の……あの時と同じように……。
──上空では、まだ雷鳴が轟いている。研究所の門をくぐると、敷地内は想像以上に広く複雑な構造をしていた。
「各チーム、分散して実験棟を探せ!」
イレイジャーのボスであるミネ・チョウジから連絡が入った。
「了解!」
各車両が散開し、ノブはバイクを運転しているヤシュケスに指示し、産業道路沿いの東側から探していくことにした。
2棟を調べ終わり、次の建物に移ったとき、《実験棟》と書かれた看板が見えてきた。
「ビンゴ! ここだ」
いつも物静かなヤシュケスが声を上げた。
その時、上空から轟音とともに稲妻が落ち、実験棟が赤い光に染まった。
「逃げろ!!!」
実験棟の入り口から、叫び声とともに3人の白衣姿をした者たちが飛び出してくるのが見えた。その瞬間、建物全体が閃光に包まれ、轟音と衝撃波がノブ達を襲った。
「うわぁーーーー!!!」
「きゃあぁぁぁーーー!」
「わぁーーーーーーー!」
爆風に飲み込まれバイクは空中に舞い上がり、ノブも体が浮き上がるのを感じた。
しかし、その後は意識が遠のいていった──。
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