閑話1 恋愛小説みたいにはいかない

マリオンは、馬車事故の後からルチアに首を絞められた時までの4ヶ月強に起きたことを全て忘れてしまった。


クラウスと顔を合わせると、ルチアとカールはどこにいるのかとマリオンはいつも聞く。でも彼は絶対に教えてくれない。マリオンはクラウスが話せないと答える度にイライラが募る。


「どうしてよ?!私がルチアに首を絞められたって貴方が私に話したのよ!中途半端に話すなら、全部話してよ!」

「ごめん…俺が悪かった。先生が了承したら、義父上も話していいって言ってるからちょっと待ってくれないか」

「貴方の意思はないの?!次期公爵でしょ?そのために私と婚約したんだものね」


マリオンは、クラウスが短気と知っているから煽ってみた。


「…俺がお前と婚約したのは公爵になるためだって本当に思ってるのか?」

「それ以外に何があるのよ」

「……そ、そうじゃない、って言ったら?」


クラウスは下を向いていて彼の声は掠れていた。その耳はほんのりと赤くなっていた。


「そんなにすぐに怒ってツンツンする態度じゃ信じられないわね」

「ああ、そうか…じゃあ、お前を抱きしめて甘いキスでもしたら信じてくれるのか?」


クラウスの頭にかっと血が上った。態度で示してやると思い、マリオンの腰をぐいっと抱き寄せて顎に手をかけた。クラウスの秀麗な顔がマリオンの顔に近づく。ここはドキドキするところなのに、彼の目は怒りに燃えていてマリオンの心は一気に凍った。でもクラウスはますます腰と顎にかける手に力を入れてマリオンをなお一層引き寄せ、唇同士がぶつかった。前歯がガチっと当たって痛みが走る。


「い、痛っ!な、な、な、何するのよ!結婚前に破廉恥よ!」


マリオンは侍女に見られたと思うと恥ずかしくなってクラウスの肩を押しやり、頬を平手打ちした。こんなのがファーストキスだと思うと悲しくなった。愛読している恋愛小説では、こんな雰囲気ゼロのファーストキスはない。


「何すんだよ。痛いだろ?!」

「当たり前よ!いくら婚約者でも結婚前にこんな破廉恥なこと許されないわ!早く部屋から出て行って!」

「もうすぐ結婚する婚約者同士で、しかももう同じ家に住んでるんだぞ。そのぐらい問題ない。義父上も義母上も許してくれるはずだ。それとも何だ、他の男に操を立てているのか?そんなこと許されないぞ!」


クラウスはマリオンの両肩を掴んで揺さぶった。マリオンは顔を歪めて反論した。


「貴方と結婚したって私の心は自由よ!」

「クソッ!」


クラウスの心の中は嫉妬と怒りの嵐で滅茶苦茶になった。クラウスはマリオンを乱暴に突き放し、怒り心頭のままマリオンの部屋から出て行った。


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少しわかりづらくて申し訳ないのですが、ここから(正確に言えば第19話の時間軸からですが)本編は現代に戻りますので、本編とは別の話、でも異世界の話ということで、幕間とせず、閑話として新しい話番号でアップします。

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