第1話 目覚め

「あれ…私、事故に遭ったんじゃないの?!」


目が覚めると、美幸は病室ではなく、どこかの豪華な寝室に寝かされていた。寝台はとてつもなく幅広く、天蓋がかけられている。室内にある家具は壁紙の色と合わせて薄緑色に塗られており、所々金彩や鮮やかな花模様が施されている。カーテンが閉められていて部屋は薄暗いが、ほんのりと日光がカーテン越しに入ってきているので、まだ昼間らしい。花柄の壁紙が貼られている壁の天井近くにライトが何個か付けられていてそのうちの2個が電灯のようにほのかに点灯している。明かりが揺れないので蝋燭の明かりではないようだ。


美幸は起き上がろうとしたが、身体に力が入らず、左足首と左肩が痛い。ふと下を見ると掛布団の上に広がる金色の髪が目に入った。でも美幸の髪はロングヘアでこそあっても黒髪だ。


美幸があわてて左手を見ると、ダイヤの指輪がない。咄嗟に誰かを呼ぼうと寝台の横にある紐を引っ張ると、ベルが鳴り、すぐに扉がノックされた。


なぜか『入りなさい』と口をついて出た。入って来たのはお仕着せを着た侍女だった。彼女はマリオンの専属侍女ルチアで、彼女の兄カールはマリオンの専属護衛騎士だと美幸=マリオンはすぐに思い出した。


「マリオンお嬢様、目覚められたのですね!すぐにお医者様をお呼びします。ベルを鳴らされましたけど、何かすることはございますか?」

「いえ、ないわ。ただ、聞きたいことがあるの。ダイヤの指輪を左手にはめてたと思うんだけど、どこにあるかしら?」

「事故の時に身に着けられていた装飾品は衣裳部屋の金庫の中にあるはずです。後で執事に開けてもらって探します。どのような指輪でしょうか?」

「プラチナで内側にK to Mって刻印があるの」

「ああ、クラウス様が贈られた指輪ですね?高価な物は旦那様の執務室の金庫にありますから、執事に確認してもらいます」


ルチアが寝室から出て行った後、どの記憶が美幸としての記憶なのか、マリオンとしての記憶なのかマリオンは徐々に判別できてきた。今世では美幸は公爵家の跡取り娘マリオンである。ルチアに話したダイヤの指輪は、今世の物ではなく、前世の恋人に贈られた物だ。いや、贈られるはずのものだった。


「事故…クラウスって誰?!」


馬車の事故でルチアの兄の護衛騎士カールがマリオンを庇ったことは思い出した。でも『クラウス』という名は思い出せない。思い出そうとすると頭痛がした。

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