寝たふり

鳴平伝八

エピローグ

「許さない。あいつは何も知らないと思って……私のことをバカにしているのよ!」


 犯人の女は涙を流しながらそう訴える。


 取調室では、陰鬱な空気が立ち込めていた。


「どれだけ私が涙を流してきたと思っているの?バカにしてる!ちょっと優しくすれば機嫌がなおっていると思って……私はプリンなんか大っ嫌い!」


 テーブルをバタンと叩く。


「近くに居ても、ずっとずっと遠くにいるみたい」


 向かいに座る女性警察官が、無言で、ただ、強いまなざしで相手の女を見ていた。それはわたりやすい、敵意の視線。


「あんなやつ」


 その視線に気にすることなく、睨み返すように女が言う。


「死んで当然よ」


 女の悲痛な叫びと表情は、そこで途切れる。すべて出し尽くしたように無表情であった。


 唐突に、泣いているような、笑っているような表情になる。心情の読めないその顔に、警察官は冷たい感覚を覚え、それは次第に恐怖へと変わっていった。


 悲しき不貞の物語はこの女によって完結した。

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