道は同じ 20話
「おはようございます。井上颯太さん。あなたは本日23時34分45秒に死亡いたしました。享年は23歳です」
またこの場所に帰って来てしまったのか。何度もここに来るとは思ってもいなかった。
「未来を変えることって難しいんですね」
もう何もかも諦めた。人生って変えることができないんだ。神様の定めだから1人間が変えられることじゃないんだ。
「3度目の人生楽しんでいただけたでしょうか?」
「割と楽しかったよ。でも、初めからこうなることがわかっていたのなら、もっと楽しいことしたのにな。結局、親には迷惑かけてばかりだった。漫画家なんて目指さなければよかった」
「そうでもありませんよ。あなたのお父さんは、春になると毎回応援している球団のキャンプを見に訪れていました。これでお父さんの1つの夢は叶いました。お母さんはマンゴーが好きで形の悪いマンゴーを安く手に入れることがえきて大満足です。離れて寂しがっていましたが、両親は案外楽しんでいましたよ」
嘘か本当か怪しいところはあるけど、嘘でもいいから他人にそう言われたら、悪かった気はしないな。
「はあー。僕の人生これで終わりか」
「ええ。第1の人生は終了でございます」
「その言い方だったら第2の人生があるみたいじゃないですか」
「ええ。ございますよ。第2の人生」
また過去に戻れるとかそんな話だろうか。第2の人生とは。
「第2の人生は過去に戻るのではなく、別の世界に行くことです。行き先についてはこちらで勝手に選ばせてもらいます。それ以前に、人生をここで終えても構いませんよ。その場合、私どもに協力したことが原因で地獄行きは確定ですが」
「自ら望んで地獄に行く人なんていないでしょう。別の世界に行かせてください」
「そう言うと思ってました。ですが、条件があります。別の世界に行くには野本結衣様も同伴になります」
なんだよそれ。僕はどこまで行っても野本と一緒にいなければならないのか。それはまた地獄と同じじゃないか。
「断れば……」
「このまま地獄へ落ちてもらいます」
「そっか、それなら仕方ないな。不本意だけど、第2の人生を歩んでくいかないな」
「ええ、そうしてくれると助かります。その前にあなたに見せたいものがございます」
尾形は僕の前に新聞を広げた。その新聞は、3月18日のものだった。緒方が指差した先には、ラブホテルで男女2人の遺体が見つかったとあった。
「これって……」
「あなたの思っている通りですよ。野本様は、あなたを殺して自ら命を絶ったのです。続きも読んでみてください」
見出しではなくて本文の方に目をやると。その3日前に見つかった刺殺遺体の犯人ではないかと。殺されたのは植田直哉。野本の動機は、脅されていてカッとなったのではないかと。植田からさまざまな脅迫文が野本に届いていて、限界を迎えたんじゃないかと書かれていた。
「野本様も苦渋の決断であなたを殺してしまったのですよ。そのことについては、前々回にあの世に行く前に後悔を口にしていました。颯太の悪口を言われたくない。植田に殺されるくらいなら私が殺す。と。野本様は心の底からあなたを愛していたんですよ。ただ、少し愛が重たかっただけですね」
「愛が重いか……なんとなく気付いてはいたんですよ。わがままで束縛が激しくて、でも1回目の人生ではなんでか嫌だとは思っていなかったんですよね。それだけ好きだったのかもしれません」
「井上様と野本様が次に行かれる世界では、そいうった邪魔はございませんので余生を楽しんでお過ごしください」
「わかりました。野本との第2の人生円満に過ごしてみせますよ」
「ええ。こちらもどんなお話が出来上がるのか楽しみにしています。それでは野本様をこちらにお呼びいたします」
尾形の真後ろにあった真っ黒な扉を開けると、寝ぼけたような野本が中から現れた。
「……ここはどこ?」
「結衣。これから誰にも邪魔されない世界に行こう」
「颯太……颯太がいるのだったら、私はどこだっていいよ」
「それではこちらになります」
今度は僕の背後の扉を尾形は開いた。その先は、今はまだ森林しかないけど、開拓すれば自給自足の田舎生活が送れるのかもしれない。ああ、楽しみだ。
Another Story
真っ暗で何もない空間にただ1人の男が佇んでいた。男の名は尾形祐太郎。合同会社再生屋の社員をしている。尾形はさっきまでいた井上と野本を見送ったばかりであった。その件を社長に報告すべく、懐からスマホを取り出した。
プルルルルルル〜プルルルルルル〜
「もしもし社長。本日指定されていました3名の記憶と脳を入手いたしました。井上様と野本様は別世界の方へ転送いたしました。私も今からそちらに向かいます。次は女性2名ですねわかりました。近いうちに接触いたします」
尾形は電話を切ってスマホを懐にしまった。そして、床に落ちていた新聞を拾い上げて、手でビリビリに破ったのだった。
「真実とは一体なんなんでしょうか」
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