道は同じ 10

 なるほど。松島から聞いたことと同じだ。案外松島と繋がっていたのは、この人なのかもしれないな。それにしても野本の嘘は雑だな。そう言えば、浮気をされた時の言い訳も、実にくだらないものだった。まあ、今更どうでもいい。

 

「う〜ん……どこから否定したものか。端的に言うのなら、全部違うね。そもそもスマホ壊れたから、告白なんてできないし。スマホないから呼び出せないし。野本さんの家なんて知らないから、どこに呼び出すって言うんだろう。それに、振った相手に呼び出されて、素直に行くとは到底思えないよね」

 

「菜々子もそこが変だって言っていた」

 

 隣にいる能見さんはまだ言葉を発しない。

 

「結衣の様子もずっと変だった……」

 

 やっと喋ったと思えば、野本のことを下の名前で呼んでいる。それだけ親しい仲だと言うことか。そんな友人からも疑われているなんて、ざまあとしか言えない。

 

「井上、ありがとう。後は私たちの話になるから、悪いけど、席を外してくれ」

 

「はいはい。帰ります」

 

 帰り道。1人で考え事をしながら歩いていた。

 もしかすれば、過去に帰ってきた時に画策していた、野本の退学を実現できるかもしれないと。

 もし、野本の退学を実現できれば、僕の人生は平穏そのものに確実に変わる。ことを進めるためには、能見さんの協力は必要不可欠だ。裏で僕が暗躍すれば、できるかもしれない。

 家に帰って、1日ぶりにスマホの電源を入れた。野本の発言が嘘だっていう、決定的な証拠を集めるために、メッセージアプリを開いたが、野本から送られてきていた5件のメッセージは野本によって既に消されていた。だが、まだ遅くない。フレンド登録もしていなく、僕からは何も送ってなくて、そして、野本がメッセージを取り消しているっているのが何よりの証拠。やましいことがなければ、メッセージを取り消す必要なんてないもんな。これを能見さんに見せれば、野本の嘘を暴ける。いや、能見さんに見せるより、根岸もいた方がいいな。4組女子のツートップ。その1人がいれば、野本の4組女子からの信頼は地に堕ちる。責められ続けて学校を退学する。それこそ最高のシナリオ。

 早速スクショだ。これをまずは、根岸に送る。根岸に能見さんに送ってもらって……それは必要ないか。根岸さえこのことを知っていれば、勝手に広めてくれる。

 僕は野本とのトーク画面を根岸に送信した。こう文面を添えて。

 

(壊れている間に知らない人からメッセージがきていた。これって野本さんじゃないのかな?)

 

 根岸は暇人なのか、1分も経たないうちに返信が来た。

 

(何でこれだけで、野本さんだと?)

 

 しまった。過去からやって来たから、野本のアカウントをアイコンを見ただけで知っていたけど、この世界ではまだ面識がないのだった。

 

(ほら、能見さんが野本さんのことをゆいって言っていたでしょ。それで、そうなんかじゃないかなって)

 

(確かに。野本さんの下の名前ってゆいだった気がするわ)

(とりあえず、菜々子に聞いてみる)

 

 危なかった。野本とは赤の他人だと言うことを改めて意識しておかないと。

 それからどうなったのか。根岸からメッセージが来ることはなかった。

 次の日も朝はギリギリに登校した。根岸からも野本からも呼び出されるのが怖かったからだ。

 相変わらず、三河は登校が遅い。またしても、出くわしてしまうとは。

 

「三河スマホ治ったぞ」

 

「くそ、自慢できるのもここまでか」

 

 これで治ったことの証言も得られる。

 順調に進みすぎて、大きな落とし穴でもないのかと疑いたくなるが、ここから動くのは僕ではなくて根岸と能見さんだから、僕は高みの見物といこうか。

 ことが動くのは早かった。僕は昼休みに、根岸に、またあの場所に呼ばれた。その場所には、根岸の他に、能見さんと野本と、野本と仲のいい高見さんがいた。

 

「野本さん。あんたに聞きたいことがあるんだけど、これ、あんたが言っていることと違うくない?」

 

 根岸は野本にスマホの画面を見せながらそう言った。多分見せていたのは、僕が昨日送ったトーク画面だろう。

 

「は? 何のこと? 第一、それあんたに関係ある?」

 

 あ、これは修羅場が始まるやつだ。

 

「あんたの恋愛事情とかは興味ないけど、菜々子にこの件について相談していたんでしょ。それが嘘とかあり得ない。菜々子にまで迷惑かけないでくれる」

 

 根岸さんは敵ではないかもしれないけど、味方でもなさそうだ。根岸さんにとって何よりの問題は、能見さんが傷ついているかいないかだ。義理堅い性格だな。僕の知っている限り、根岸はそんな性格ではなかった。時空を歪めて、性格まで変えてしまっている人がここにもいたとは。

 

「はあ? 知らないけど……迷惑なんてかけてないでしょ? 勝手に被害者ぶらないでよ」

 

 思い出しただけで寒気がするけど、殺される直前の野本はこんな感じだった。悪いことをしているという意識そのものが存在していなかった。

 

「嘘ついて迷惑かけているのはお前だろ!」

 

「嘘なんてついていない!」

 

「だったら、お前は井上にどこに、何時に呼び出されたんだよ!」

 

「そ、それは……」

 

「何だ言えないのか?」

 

「ト、トラウマで思い出せないだけだよ」

 

「あのな。どんな嘘をつきたいのか知らないけど、井上は一昨日にスマホを水没させていたから、お前なんて呼び出せないんだよ!」

 

「スマホじゃなくて手紙で呼び出された。だから、水没していようが、関係ないでしょ」

 

「だったら、お前が言っていることとの整合性が取れないな。だってお前、振った後に井上に呼び出されたんだろ。それで、のこのこと会いに行ったんだろ。菜々子に言っていることと違うぞ」

 

「そ、それは……」

 

 根岸は案外やるもんだ。ずっと同じくらいの底辺だと思っていたけど、意外と真ん中くらいの順位だったのかも。何にせよ、野本をここまで追い詰められるとは思ってもいなかった。完全に追い風だ。この後期は逃すまい。

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