道は同じ 4
2019年5月13日月曜日。
ついに初めての合同ゴミ拾いの日がやってきた。このゴミ拾いでは、交友関係を持つことはなかったが、どうなることやら。とりあえず同じ班にならないことだけを願うしかない。
僕ら、3組と4組は、学校敷地外の以北、人通りの極端に少ない、狭い道のゴミ拾いを言われた。
僕の記憶上もこの場所だったから、多分だけど、野本とは同じ班にはならないはずだ。
僕の記憶の通り、野本とは遠い班に僕は割り当てられた。同じ班には、植田もいるが、これは僕の記憶にはない。少しは変わっているがこれも誤差の範囲だろうか。
「井上。どっちがたくさん集めれるか勝負しようぜ」
植田とはこう言う人間なのだろうか。関わりがなくて、知らない相手だから、どう関わればいいのかが分からないな。
「やだよ。僕は量より質の問題だと思うから」
「というと?」
「量を集めることって簡単にできるだろ。例えば、大きなゴミを集中的に集めたら、量は確実に増える。小さなゴミばかりだと、量は増えない。大きなゴミばかり集めると言うことは、大雑把にゴミを集めることになるから、小さなゴミは見て見ぬ振りをする。それだと、このゴミ拾いの意義を問われかねないからね。だから、僕は大きなゴミも小さなゴミを集めて、少しでもゴミを減らすことに集中する。そんなわけで、勝負はごめんだ」
大義名分のように聞こえるかもしれないが、本当はただただ面倒だっただけだ。それに、僕は中身は大人だ。そんなくだらないことで競ったりはしない。
「お前、意外と真面目なんだな」
「“意外”ってなんだよ。僕は初めから大真面目だよ」
「入学式を寝て怒られたやつが?」
「それはたまたまだ。眠かったから仕方ないだろ」
本当に尾形は、碌でもないタイミングに過去に送りやがる。もう少しタイミングというものを考えて欲しいものだ。おかげで僕の教師からの印象は最悪だ。授業中も何度も目が合う。目立ちたくないのに、当てられる。
「眠くても、あんな緊張感のある場所では普通は寝られないよ」
それだけは同感だけど、頷くことができないなんて、もどかしすぎる。
「口じゃなくて手を動かせよ、植田」
「揚げ足どりだな」
植田とはかれこれ1ヶ月くらい仲良くしているが、退学しそうな理由は今のところ見るかっていない。性格も温厚で、女子とは滅多に話さないけど、男子の中では明るい方の人物だ。この世界に戻ってくる前は、同じクラスじゃなかったから、僕は彼についてはほとんど何も知らない。だが、人に嫌われるようなやつではない。もしかすれば、植田と僕が同じクラスになったことで、植田の退学がなくなったりはしないのだろうか。もし、退学がなくなれば、未来が大幅に変わっていることになる。それは僕にとってはプラスに働くのかマイナスに働くのか、今はまだ分からないけど、野本との関係がなくなるのであれば、どちらでもいい。何よりの問題は、野本なのだから。
それからの僕は植田と共に楽しい日々を過ごした。まるで、野本のことを忘れてしまうほどに、それは楽しい日々だった。だが、来る日の最悪。11月3日を迎える1ヶ月と少し前の今日。僕はよくやく我に帰った。対策を練らねばならないと。
この学校の文化祭は、9月26日と9月27日の計2日。前回の僕は黙々とたこ焼きを焼いていた。それを今回は、裏方に回っての作業をすることには成功した。だが、それでも、野本とはどこで出会うのか分からない。僕の記憶上では、文化祭で野本を見ることはなかったが、向こうからは見られていたから、気を付けなければ。休憩時間もできるだけ動かないように、教室の隅で篭っておこう。リスクを回避するにはそれしかない。
「井上。休憩時間同じだから、屋台一緒に回らない?」
その前にこいつもどうにかしないといけなかった。事情を知らないやつはお気楽でいいよな。
「回らない。人が多いところは苦手なんだ」
「せっかくの文化祭なのにそんなのでいいのかよ」
「なんだっていい」
だって、僕は高校3年間、文化祭はすでに満喫しているから。今更もう一度楽しみたいなんて思いもしない。今となっては何よりも目立たないことだけが、優先事項だ。
「文化祭を楽しまなかったら、将来絶対に後悔するぞ」
それはごもっともな意見だけど、実際、僕は3年間文化祭を満喫して、今、後悔をしている。あの時楽しまなければ、僕は殺されることはなかったのだから。
「もういいんだよ」
「“もう”ってどういうことだよ」
「中学3年間で。十分文化祭を楽しんだから、もう、波風立てずに過ごしたいんだよ」
「中身おっさんかよ。まあ、井上がそこまでいうのなら、仕方ないから、他のやつと回るわ」
すまないな、植田。君のことは嫌いではないが、僕はもう選択を間違えるわけには、いかないのだ。
文化祭当日。
クラスの出し物である、たこ焼きの粉をひたすら混ぜ続けるという、裏方も裏方の仕事をこなし、仕事中はテントの陰から一歩も出ることなく、休憩中は誰もいない教室で、カーテンを閉め切り、電気も消して、近寄りがたい雰囲気を作っていた。
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