(一)-5

 彼女は不安そうな顔をめいっぱい作り、おっさんの顔に向けていた。

 おっさんは仏のような優しい顔をして彼女を見ていた。

「わかりました。お話だけなら」

 彼女はそう言うと、「支度してきますのでお待ち下さい」と奥に入っていった。

 そうして一〇分ほどで支度を終えて出てきた。ここに来る前にはあまり着たことがない地味なださいシャツに紺色のカーディガンとベージュのズボン姿になった彼女は、玄関ドアの向こうで待っていた刑事たちとともに、マンションの一階に駐めてある覆面パトカーに乗り込んだ。

 俺は、彼女が家を出る時に彼女のハンドバッグに乱暴に押し込まれた。つまり、俺は彼女と一緒に泉水警察署へ行くことになった。


(続く)

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