第1話 ワンダーワールドへ

 ━━5年前……


 4月になり季節は春になった。桜も咲き誇り、入学の時期だ。そんなある日、世界中に衝撃が走った。


 なんと、世界初のフルダイブ型のVRMMOが発売された。それは、瞬く間に世界中に広がりゲームショップには多くの人が押し寄せた。


 このゲームは専用のゴーグルのような機械を装着し、ヘルメットのような物を頭に被ることでバーチャル世界へと意識を飛ばすことが出来るというものだ。


 原理はかなり簡単で、脳から発せられる電気信号を体に流さないように首元で遮断し、その電気信号に別の電気信号を送ることで脳にバーチャル世界にいると錯覚させているのだ。


 人々はこのことを知らない。だが、このゲームが楽しいと言うことだけ知っている。いや、知ってしまったのだ。このゲームが、悪魔のゲームだとも知らずに……。


 皆はこのゲームに没頭したのにはまた別の理由がある。なんと、このバーチャル世界と現実世界は連動しているのだ。バーチャル世界で手に入れたお金やアイテムは、現実世界で使うことも売ることも出来る。プレイヤーの中には小遣い稼ぎと言ってやる人もいた。


 要するに、世界中の人々はこのゲームに没頭したのだ。


 そして、それはこの男も例外ではない。


 この男の名前は黒星くろぼし魁斗かいと。17歳のごく普通のゲーム好きな高校生だ。だが、ゲーム好きと言ってもただ好きなだけ。四六時中やっていたいとか、ランカーになるために課金するとかそう言うタイプの人じゃない。


 だから、当時12歳だった魁斗はこのゲームを初めて見た時


「へぇ、面白そうだ」


 としか思わず、一目散に買いに行くということは無かった。魁斗の家族は皆欲しいと言っていたが、魁斗はそんなことより今やっている別のゲームの攻略をしたかったため、買わなかった。


 だが、発売されてから1年が経ったある日家族がそのゲーム機を4台購入してきた。


 魁斗は4人家族で妹が1人いる。そう、ちょうど家族全員分買ってきたのだ。ご丁寧にアプリケーションも買ってきている。


 ちなみにだが、このゲームはかなり高性能だ。アプリケーションは全てマイクロチップに保存されており、このマイクロチップを本体に挿入することでゲームをすることが出来る。


 家族は買ってきてすぐにそのゲームを始めた。しかし、魁斗は始めなかった。そして、それから4年が経過した。


 今や魁斗も17歳。真面目に学校に通うごく普通の高校生だ。そんな魁斗は今ものすごく幸せに満ちている。なんと、今までやっていたゲームを攻略することが出来たのだ。


「やった。遂に攻略した。全難易度もクリア。イベントは全て解放して……やっとクリアだ!」


 魁斗はそんなことを言いながら喜ぶ。そして、次のゲームを探し始めた。


「さて、次は何をしようかな」


 そう言って色々と探す。その時、ふと家族が買ってきたゲームを思い出した。


 魁斗はそのゲームを手に取る。ゲーム名は、『ソードアンドマジック』。幼稚園児が考えそうな名前だ。


 魁斗はそのゲームの説明を見ながらリビングへと向かった。


「……」


 リビングでは家族が眠っている。どうやらこのゲームをしているらしい。まぁ、この3人は基本的に毎日しているからあまり不自然には思わない。


「……剣と魔法の世界か……。世界名は、ワンダーワールド。驚きの世界……」


 魁斗は意を決した。そして、その日初めてそのゲームに手を出した。


 だが、それは愚かな行為だった。この日から、魁斗の全世界を巻き込んだダークサイドゲームの始まりだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……それから魁斗は自室へと戻りベッドに寝転ぶ。


「えっと……なんだっけ?”……ゲームスタート……”たっけ?」


 魁斗がそんなことを言っていると、突如意識が途絶えた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……


 目を開けるとそこは真っ白の空間だった。そして、目の前には女性と妖精のようなものがいる。


『ようこそ、ワンダーワールドへ。ここは皆さんの願望を叶える空間でございます。説明を聞きますか?』


「いや、いい」


『左様ですか。では、あなたのキャラクター設定をしましょう。まず、あなたの名前、もしくはニックネームを教えてください』


 女性がそう言うと、魁斗の目の前にパネルのようなものが現れる。どうやらこれを押すことで文字を打ち込むことが出来るらしい。


「あ〜、まぁいつも使ってるので良いか」


 そう言って文字を打ち込む。


『名前の打ち込みが完了したら確認ボタンを押してください』


 女性がそう言うと、名前とともに確認ボタンが現れる。魁斗はそれを押した。


『確認しました。”シュテル”でよろしいですね?』


「あぁ」


『了解しました。では、次にアバター設定をしましょう。好きなアバターを設定してください』


 そう言っていくつかのアバターが映し出される。どうやらこのゲームは自分の顔や体を何かしらの信号で認識させ、その輪郭や体型を限りなく現実に近づけさせているらしい。


 どのアバターもアニメ風だが全て顔が似ている。体型もほぼ一緒だろう。


「……これって何かしらの特攻があるのか?」


『はい。まず、1番目のアバターは近接戦闘特化です。2番目は魔法などの遠距離戦闘、3番目は幻術や弱体化などのデバフ、4番目は策略や戦略と、それぞれ特化したものがあります。そして、まだ誰も当てたことは無いですが、ランダムを選んだ場合全てにおいて特攻を持つアバターになることもあります。どうしますか?』


 女性はそう言って姿の見えないアバターを見せてきた。しかし、魁斗は全く迷いもせずに近接戦闘特化のアバターを選ぶ。


『これでよろしいですね?』


「あぁ。俺は近接戦闘が得意だからな。変に色々なことに特化しても器用貧乏になるだけだ」


『なるほど。よく考えてらっしゃいますね。さすがです。では、キャラクター設定は完了しました。これより、あなたをワンダーワールドへ送ります。ご健闘を……』


 女性はそう言って笑顔で手を振っていた。そして、再び視界は白い光で埋め尽くされた。その光が強く、目を開けていられない。魁斗は光を直視しないように腕で目を覆う。


 少しすると光は納まった。それを確認してから目を覆う腕をどかすと、そこには驚きよ光景が待っていた。


 そこは、中世ヨーロッパくらいの建物が立ち並ぶ街だった。そこには多くの人がいて、皆何かしらのことをしている。


「ここがワンダーワールド……」


 魁斗……シュテルはそう呟いて歩き出した。そして、街を散策する。あまり奥には行き過ぎないようにした。奥に行きすぎるとカツアゲ似合う可能性があるからだ。


「……凄いな。まるでリアルだ。……えっと……初期装備は木の剣か……初回所持金は1000ゴールド。これがどれだけの数かは分からないが、この1000ゴールドが日本の何円かになって使えるんだな」


 シュテルはそんなことを呟きながら散策する。少し歩くと街の門に出た。そこから外に行けば次の街にも行けるしモンスターと戦うことも出来る。


「ちょっと行ってみるか……」


 シュテルはそう言って街の外へと出た。

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