元悪徳領主の娘ですが、蛮族の国に嫁いで割と幸せにやってます
みなかみしょう
第1話
大変ですわ! 大変ですわ! 悪徳領主の私の両親がついに捕まりましたわ。
……冷静に考えると世間的には良いことですわね。
しかし、私こと、ルルシア・グランフレシアにとっては人生の一大事なのです。
十歳より十八歳までの、ラインフォルスト王国の王立学院で学ぶ日々、楽しゅうございました。なにより一番の収穫は、私の両親が悪徳領主であるという疑惑が確信に至ったことでしょう。
領地の中で育っている時も薄々感づいておりました。周りの人々から私と両親を見る時の時折覗かせる畏れの感情。歳を追って世の中の仕組みを学ぶ内、私腹を肥やしているように見える両親。
ただ、籠の中の鳥である私にはそれを確かめる術はなく、ただあるがままの日常を受け入れる日々だったのです。
淑女としての教養を身につけるため、王都の学院に入学したその時、私は籠から解き放たれたのです。ええ、強制的でしたわ。両親の評判、貴族の間で普通に悪かったので。
王国の片隅で小狡い手を使って資産を蓄える新興貴族。それが我が家に対する世間の評価でしたの。小狡い、というのがポイントですわね。領民に重税を課すわけではなく、適度に利権を抑える。それでいて、民に還元しない。
まさに小悪党。私の調べた範囲では、反社会的な団体を使った酷い手も時折使っているようでしたわ。
家の評判が地に落ちた私の学園生活は……まあ、ぼちぼちでしたわ。同類みたいな貴族令嬢が自然と寄ってきましたの。性格はそれぞれ、親のようであったり、親が悩みの種だったり。
私は結局、親が悩みの種になりましたわ。実家に帰った時、それとなく悪徳行為を控えたらと言ってみたら「お前はそんなことより、いい貴族の男を見つけろ。それが仕事だ」とバッサリでしたので。学院は婚活会場ではありませんのよ。……そういう側面もありますけれど。
ともあれ、両親に絶望していた私は、接触を最小限に抑え、卒業後にどうにか距離を取るべく活動しておりましたの。いつ自分に官憲の刃が突きつけられるかわからない家など、無くなっても痛くありませんものね。
家はともかく良識のある娘。そんな評価を得つつ、もうすぐ卒業。
そのタイミングでこれですわ。最悪ですわ。思った以上にちゃんと仕事しましたわね、王国騎士団。
「申し訳ありません。ルルシア様。私の両親が迂闊なばかりに……」
学院の一室。私の部屋で下級生が涙を流しています。親が私と同じようなタイプの生徒です。どうやら、彼女の両親から情報が漏れて、我が家まで波及したらしいですの。
「安心なさい。遅かれ早かれ、こうなっていたわ。貴方もわかるでしょう……」
「……ルルシア様」
そう、わかっていたのです。これだけ悪評が広まれば、国だって目を付ける。隙あらば、つけいってくる。世の中そんなもんですわ。
さしあたって、私がするべきは、ここで彼女を慰めることではありませんわね。
「まずは自分達が生きていくために動きましょう。馬車を用意するわよ」
別に国外逃亡するわけではありません。
まずは王都にある別邸に行くのです。私の両親も一年の半分は王都におりますので。田舎よりも贅沢な都会暮らしが好き。悪徳領主らしい生活をしておりますの。
おかげで今、大変なことになっているわけですけれどね。親が王都で培った人間関係の賜物ですわね、この事件。
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