93. 王位の行方です
ブランの方に飛んでいくと、見慣れない人とお話をしているグレン様の姿が目に入った。
あのお方達は、王妃派に入っている公爵様と侯爵様。他にも十人近い貴族の姿が目に入った。
空をふわふわと飛んで近付くと、グレン様と目が合った。
「妻と話をするので、少しお待ちください」
「あの方が噂の……何時間でも構いませんよ」
彼が話を中断したのを見てから、私は本題を切り出した。
「……という状況なので、グレン様にも来て頂きたいのです」
「分かった。そういうことなら、今ここにいる爵位持ち全員で行こう」
ブランの背中に乗っている他の貴族達を流し見てから、そう口にするグレン様。
全員頷いていたから、私は国王陛下の居場所に向かうためにブランの背中から降りた。
「しかし、王妃殿下を一人にして大丈夫なのでしょうか?」
「防御魔法と力が増える魔法をかけているので、しばらくは大丈夫だと思いますわ」
「そんなことも可能とは……」
「一国の軍事力を超えるほどの力があるカストゥラ夫人を殺めようとしていた国王陛下やパメラ嬢の気が知れません。
そんな力があっても
廊下を進んでいると、そんな会話が聞こえてくる。
最近は名前で呼ばれることが多かったから、この呼び方は慣れないけれど、悪いことは言われていないみたいだから、安心した。
ずっと悪い噂を流されて、しまいには罪人扱いされていたけれど……今は悪い噂も薄れている様子。
カストゥラ家やアルタイス家と同盟を組んでいるから当然かもしれないけれど、断罪された時は取引があった家の人からも悪口が聞こえていたのよね。
正直、生きていくだけなら評判が地に落ちていても大丈夫だけれど、そこに自由は無い。
評判が良ければ動きやすくもなるから、悪い噂は無い方が良い。
治癒魔法の力に目をつけられたら困るけれど……。
嫌な想像をしてしまった頃、私が離れた時と同じ体勢で王妃殿下に拘束されている国王陛下の姿が目に入った。
「証人になって下さる方をお連れしました」
「ありがとう。
さあ、王位をラインハルトに譲ると宣言してくださいませ」
満面の笑みを浮かべる王妃様の声に、顔を青くして震える国王陛下。
けれども、お口だけは無事なようで、こんな言葉が飛び出してきた。
「あいつは王になるには未熟だ!
「どの口が言いますか! 貴方のせいで国内は大混乱ですのよ?
ラインハルトが駄目なら、貴方の仕事を八割以上こなしてきた私が王位を頂きましょう。それなら文句無いですよね?」
それでも王妃様の方が一枚上手のようで、陛下の口が止まった。
この反応……王妃様の言っていることの通りみたい。
「……チッ」
「そのまま王位を持っていても構いませんけれど、私は一切お手伝いしませんから」
「仕方ない、まだ早いと思うがラインハルトに譲ろう」
そう口にすると、国王陛下は以下は糸が切れたかのように抵抗するのをやめた。
様子を見ていても息が出来なかったわけではないから、精神的に参っているだけだと思う。
けれど王妃様は追い討ちをかけるように、王都の人達を救うための行動をするようにと指示をしていた。
国王陛下は首を縦に振るだけで、王妃様の考えに疑問を持とうともしない。
「殿下、その計画では流行病になります。
薪を用意して、一度沸騰させるべきでしょう」
「そうでしたわね。助言、感謝します」
「その計画だと少し問題がありますが……」
「多少は目を瞑らないと、死人が増えます。
赤字の責任は私が取ります」
……王妃様はしっかり考えて動いているというのに、国王陛下はコクコクと首を縦に振るだけ。
ショックを受けているからと言われるかもしれないけれど、今までのことを考えると陛下は国王派の言いなりだったと想像出来てしまう。
この人が国王だったなんて、受け入れたくないわ。
一瞬だけそう思ったけれど、王国の未来が明るくなると思うと、この国王のことなんてどうでもいい気がした。
◇
あの騒ぎの後、王妃派が総力を上げての王都民救出作戦が行われた。
高位の貴族になると魔力量を多く持っている人ばかりになるのだけど、その方々がひたすら水魔法で水を作り続けていた。
「私もお手伝いしましょうか?」
「その申し出は嬉しいですが、あまり頼り切っていてはパメラ様が聖女だった時のように、誰も何も出来なくなってしまいますから、この場はお任せください。
レイラ様はどうかお休みください」
私だけ何もしていないのも申し訳ないから、お仕事を探しているのだけど……これで断られるのは七人目。
全員、パメラ様に何かされたみたいで、魔力を沢山持っている人に頼りたくないみたい。
けれど、私だって何もしないのは嫌なのよね。
「皆様が頑張っている中で、私だけ何もしないと罪悪感に苛まれてしまいますの。
私だって貴族の身ですから、皆様と同じくらいは役目を果たさないと気が済みませんわ」
「確かに、おっしゃる通りです。ですが、ここは私だけで何とかなりますのでお任せください」
何もしないのは嫌だから、私を休ませようと忖度しなくて良いと伝えてみたのだけど、ここも並んでいる人はもういない状態。
だから私の手伝いも要らないみたいだった。
「分かりましたわ。
魔力をあまり持っていないお方はご存じでしょうか?」
そうですね……アリオト侯爵殿は魔力をあまり持っていないと記憶しているので、そろそろ魔力切れになる頃かと……」
「ありがとうございます」
でも、私がお手伝い出来そうな人の情報を手に入れたから、アリオト侯爵様が受け持っている広場に向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます