90. 行動に移します

 あの後、私達は王妃殿下達と騎士団と共にカストゥラ邸がある場所に移動することになった。

 この何も無い平原ではいつ雷に打たれてもおかしくないから。


「何故、私達を追ってきたのですか?」


 けれど全てが円満に解決したわけではない。

 王妃殿下が問いかけたような不安要素があるから。


「それが国王陛下からの命だったからです。陛下は支持が落ちていることを察しているようで、逆らえば処刑することも辞さない構えです。

 我々は王妃殿下に従いたいと考えています。そこで、国王陛下の目を欺くために形だけの追跡を行っておりました」


 話を聞き進めていくと、国王陛下は騎士団に対して酷い扱いをしていたらしい。


 不平不満を無くすために、反発があれば昼夜問わずに制圧命令を出して、水が無くて苦しんでいても命令は容赦なく飛んでくる。

 しまいには王都の人達を家族でも皆殺しにしろという命令を出されたらしい。


「家族を殺すなんて出来ませんから、その日のうちに全員で離反を決意しました。

 しかし殿下に接触することは叶わず、このような形になってしまいました。

 我々の力不足で剣を向けることになってしまい申し訳ありませんでした」

「そういう事情なら仕方ありません。頼りにしていますね」


 王妃殿下がそう口にすると、騎士団の人達は恭しく頭を下げた。


「レイラ、この人数を白竜様に乗せることは出来るか?」

「背中には乗れないと思いますわ」

「そうだよな……。竜は翼が弱点だから、乗せてもらう訳にもいかないだろう。

 何かいい方法は無いだろうか?」


 一度に全員が無理なら、何回かに分ければいいのよね。

 ブランが本気で飛べば往復しても一分とかからないから、時間だけなら大丈夫だと思う。


「ブラン、本気で六往復出来るかしら?」

「流石に僕でも疲れれるから、羽の上にも乗せるよ。防御魔法だけお願いしても良いかな?」

「分かったわ。ありがとう。

 飛ぶときに羽ばたけなくても大丈夫?」

「うん。魔法で飛べるから問題無いよ」


 ブランのおかげで話はすぐに纏まって、全員で背中に乗った。

 馬車と馬も一緒に乗っているから少し窮屈みたいだけれど、ブランの魔法のお陰で落ちることは無いから怖くは無いのよね。


 ちなみに私はブランの首の上に一人で座っているから、周りは広々としている。


「レイラ様の方がまだ空いているぞ!」

「いやいや、ここは無理だろ。怖すぎる」

「なんでレイラ様は大丈夫なんだ?」


 少し問題もあったみたいだけど、無事に全員乗り終えたから、ブランにお願いして空へと向かってもらう。

 すると後ろの方から小さく歓声が上がった。




 それからブランとお話ししながら夜空の旅を楽しむこと数分。

 カストゥラ邸がある町の明かりが見えてきた。


 雷雨も抜けたみたいで、上を見ると空が淡く光っている様子が目に入る。

 いつもの地面より星に近いからかしら? 普段よりもすごく綺麗に見えた。




   ◇




 翌朝。

 私達は王都の人達を助けるための行動を起こすことにした。


 千里眼の魔法で様子を見ていても何一つ良くならなかったから、私達で水だけでも配ることに意見が纏まったから。

 国王陛下が酷くても、国王陛下に今も従っている貴族達が王都の人達を纏めていても、逆らえない立場にいる平民に罪は無いのよね。


 昨日は雨が降っていたお陰で苦しんでいる人は減ったけれど、今は無慈悲な処刑の恐怖に襲われている様子。

 少しでも反抗すれば公開処刑だなんて、国王失格だと思う。


 けれど、あやめても良い理由にはならないから、慎重に動かなくちゃいけないのよね。


「もうすぐ着くよ」

「ありがとうございます、白竜様」


 国王陛下や国王派の貴族達を殺めずに捕えることになっているのだけど……。

 下手に私が攻撃すると、うっかり怪我をさせてしまうと思うから、防御魔法でみんなを支援する役目を任されている。


「レイラ、準備は大丈夫か?」

「ええ、いつでも大丈夫ですわ」


 攻撃を受ける瞬間に防御力を高める魔法だから今は魔力が減っていないけれど、全員から私の魔力の気配を感じるから、防御魔法は成功していると一目で分かる。

 戦いが始まったら魔力をたくさん使うことになるから、収納の魔導具に詰め込めるだけの魔石も用意している。


「王城の中庭から攻め込む。

 準備は良いか?」


 グレン様が問いかけると、騎士団の人達からもカストゥラ家の私兵達からも、しっかりとした頷きが返ってくる。


「では、白竜様の着地と同時に攻撃を開始する。健闘を祈る」


 今度は頷きではなくて、一斉に声が上がった。

 迫力に気圧されてしまいそうだわ……。




 それからは作戦通りにブランが王城の中庭に着地して、攻撃をする人達は物音を立てずに王城の中に入っていった。

 ここを守っている衛兵はまだ気付いていないみたいで、戦いの最中だというのに静かなまま。


「奇襲は成功したようだな」

「ええ。では、私は水を配ってきますわ」

「分かった」


 今回の作戦の目的は王都の人々を救うこと。

 だから、私は一人で空を飛んで人が集まっている場所を探した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る