75. 枯れそうなもの

 私が国家反逆の罪を着せられた。

 これはカストゥラ公爵家も王家から敵対していると見做されることになる。


 でも、義両親もグレン様も、私を咎めたりはしなかった。


「レイラちゃんは悪くないのに、また冤罪を着せるなんて信じられないわね」

「こうなったら戦争だ。何があってもレイラは渡すな。グレン、必ず守れ」

「分かっています。防衛線の構築と同時に、他家へ同盟の打診も行います」


 それだけでも嬉しいのに、私を守ろうと動いてくれている。

 嬉しいけれど、同時に申し訳なさも感じてしまう。


 でも、今の国王派を倒すことは私達だけではなく大勢の人のためにもなるから、やらないという選択肢は無いのかもしれない。


「交渉は私達も手伝うわ。

 味方にしたい家をまとめてもらえるかしら?」


 お義母様がそう口にすると、グレン様は家名をまとめた紙を渡していた。

 私も何かしようと思ったのだけど、狙われているからアルタイス領かカストゥラ領から出ないように言われてしまった。


 全力で戦えるなら捕まる気はしないけれど、穏便に済ませた方が良いらしい。


「レイラ、また不自由な思いをさせてしまうが、許して欲しい」

「気にしていないので大丈夫ですわ。私はお屋敷と領地を守って見せますわ」

「ありがとう。頼らせてもらうよ」


 所作の練習はしばらくお休みになってしまうけれど、この状況なら仕方ないわよね。





 あれからすぐに、義両親は交渉のために王国内を駆け回ることになった。

 グレン様も同盟関係を増やすために屋敷を早々に出ていったから、またカストゥラ邸は私と使用人さん達しかいない状況になっている。


 だから領地に関するお仕事が沢山あると思っていたのだけど、今は一番少なくなる時期のようで、私がした仕事と言えば書類二枚にサインを書いただけだ。


 だから、魔物対策にと攻撃魔法が使える魔道具を沢山作ることにした。

 むしろ、この魔物対策が本当のお仕事かもしれない。


 あの大量襲撃の後から、魔物が町の中に突然現れるということが多くなっているから、誰でも簡単に魔物を倒せた方が良いと判断したから。

 けれども魔道具の作り方は外に漏らさない方が良いから、使用人さん達の手を借りながら私が中心になって進めている。


 そして困ったことに、井戸が枯れ始めるという異変も起きている。

 このお屋敷では井戸ではなく魔道具から水を取るようになっているから影響は無いのだけど、平民はそうもいかないから、少し離れている川まで水を汲みに行かないといけないみたい。


 ちなみに、井戸が枯れ始めた原因は特定できていないけれど、どうやら井戸水になる水が王都の方から流れてきているみたいで、カストゥラ領に届かなくなっているみたい。

 まさか王都で地下水を意図的に大量に組み上げているとか、そんなことは無いわよね……?



 そんな疑問が過った時のこと。

 王都からの密偵が定期報告のために私が居る執務室に姿を見せた。


「奥様。王都からの報告に参りました」

「ありがとう。何か異変はあるかしら?」

「国王派が主導して、井戸水をひたすら組み上げています。我々の井戸水を使えないようにし、弱らせる目的のようです」


 嫌な予感が当たってしまって、少しの間考え込む私。

 水を生み出す魔道具を全ての家族に配れたら解決すると思うけれど、数十万の家族に行き届くような数は用意できない。


「分かったわ。すぐに対策しましょう」


 返事こそしたけれど、良い対策は思い付かないのよね……。

 こういう時は風景を見たりすると良いって、お母様が言っていた気がするわ。


「奥様、どちらに行かれるのですか?」

「少し庭をまわろうと思うの。井戸の対策が思い浮かばなくて」


 問いかけてきたカチーナにそう返して、テラスから庭に出る私。

 この部屋は襲撃者の対策のために敢えて階段から遠くなるように作られているから、遠回りするのが面倒に思えてしまった。


 ここは二階だけれど、風魔法を使えば痛みも無く下に降りれるのよね。


「お、奥様!?」

「カチーナも降りてきていいわよ? 魔法で受け止めるから安心して」

「わ、分かりました……」


 カチーナも降りて来てくれたから、雑談をしながら歩いていく。


「もう秋なのね」

「ええ、あと一ヶ月もすれば雪も降ると思います」

「部屋を暖める魔道具は揃えられそうで良かったわ」


 毎日、夕方に魔道具を二十個くらい作っているから、間に合うのは間違いないと思う。

 どうやら馬が凍えない工夫も庭師さん達が作っているみたいで、冬でも安全に移動できるようになるみたい。


 今でも氷魔法に対抗する手段がある人なら、馬に防御魔法をかけて対処できたけれど、これからは誰でも出来るようになるのよね。

 これがどれくらい影響するのかは私には良く分からないけれど、グレン様によると冬の行軍い影響するみたいで、万が一魔物の襲撃やや敵襲があった時でも対処がしやすくなるらしい。


「そうですね」

「まだ明るいのに肌寒いとは思わなかったわ。私は魔法があるから良いけれど、カチーナは寒く無いかしら?」

「ええ、大丈夫です。私は少し肌寒い方が好みですので」

「それなら良かったわ」


 そんなお話しをしながら、花壇をオレンジ色に染めているお花の近くにしゃがむ私。

 横から見ると少し違う景色が見えて、なんだか楽しい。


 でも、そんな時だった。

 花壇の中から雨のように細い水の線がいくつも飛び出してきて、私は顔に飛沫を浴びてしまった。


「ひゃっ……」

「大丈夫ですか?」

「ええ、少し驚いただけよ」


 そういえば、簡単に水をあげられるように小さな穴を空けた管を通しているのだったわ。

 今はその水やりの時間だったのね。


「……これだわ。これを大きくしたものを町中に張り巡らせましょう!」

「たしかに、それなら魔道具一つになるので、維持も簡単になりますね!」


 火の魔法で水を拭ってから、小さく拳を握った。

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