58. 自由に過ごしています
みんなが待っている広間に入ると、侍女さん達によって真ん中に促された。
そこに居るグレン様と目が合うと、柔らかい笑みが飛んでくる。
イケメンはどんな顔でも格好良いとはよく言うけれど、この笑みには心が揺れそうになってしまった。
少し残念なところはあるけれど、誰かが意見をすれば聞き入れて、最近は使用人達のことも気にかけて居るグレン様の輝きは日に日に増している気がするのよね。
今は私の方がみんなから信頼されているけれど、追いつかれるのも時間の問題なような気がしている。
そうなったら嬉しいし、助けてもらった恩返しになる気がする。
「レイラ、考え事は後にしてパーティーを楽しもう」
「はい……!」
ちなみに、今回の黒竜討伐でグレン様の評価はちょっとだけ上がっていた。
カチーナは「奥様のための行動なら、使用人一同、心から歓迎いたします」だなんて言っていたのよね。
当主の扱いがコレは少し問題な気もするけれど、表向きには包み隠されているから問題も無いと思う。
「主役なんですから、楽しんでください!」
「みんなありがとう!」
魔物の大量襲撃も無くなって、今は平和そのもの。
「少し食べたら、一曲どうかな?」
「はい、喜んで」
グレン様からの誘いに、差し出された手をとって応える私。
その瞬間、侍女さん達か小さく歓声が上がった気がした。
今のグレン様と私の関係は、三年限りのお飾り夫婦。
それなのに、どうして喜ばれているのかしら……?
不思議に思っていると、グレン様がこんなことを口にした。
「聞きたくない話かもしれないが、聖女パメラが元聖女になったようだ」
「それって、つまり……」
「パメラの価値が無いと判断されて、聖女ではなくなった。
今更な気はするが、これで魔物の襲来も無くなるだろう」
気になって詳しく聞いてみると、パメラ様は聖女の役から外されただけで、断罪はされていないらいしい。
私は無実の罪で命を狙われていたのに、パメラ様はお咎め無しみたい。
でも、私から仕返ししようとは思わなかった。
パメラ様を放置しているだけで、私の命を狙っていた王国も一緒に痛い目を見るって、少し考えれば分かるもの。
その様子を見たい気持ちはあるけれど、正直……このお屋敷でみんなと楽しく過ごす方が幸せな気がする。
「それなら良いのですけど、パメラ様が魔物を寄せていることに気付いたら……」
「もし、そのようになったら俺達で止めれば良い。
すぐに動けるように証拠は集めておこう。王家の後ろ盾が無くなったお陰で動きやすい」
今は少し暗い話題だけれど、料理を見ている間に話題も変わっていった。
普段は並ばないような珍しい料理に、少し離れたところで取れるという珍しい果物。
それから初めて見るお肉に、公爵家でも中々手が出ないという、アルタイス領でしか取れない美味しい野菜を使た料理。
「レイラが好んでいたと聞いて、無理を言って取り寄せてもらったんだ」
「そうでしたのね。
でも、冷やし続ける魔道具は無いのに、どうやって……?」
私が問いかけると、カチーナに視線を向けるグレン様。
カチーナは唯一このお屋敷で氷魔法も使える使用人なのだけど、まさか……。
「奥様が喜ぶと思って、私が運んできました」
「そうだったの。ありがとう」
好きな食材を使った料理を前にして、つい頬が緩んでしまう。
高級とは言えないけれど、野菜なのにほのかな甘みがあって、すっごく美味しいのよね。
「冷蔵庫が無かったら難しかったので、奥様には感謝しかありません。
噂の食材をこうして食べられるのですから」
「そんなに評判だったのね……」
「ああ。アルタイス家で食事を出された者なら、全員もう一度食べたいと思っているはずだ」
そんなことをお話ししながら、料理を口に運ぶ私。
今日は立食形式になっているから、みんなとお話ししながら食べられるのよね。
でも、お話ししているうちにグレン様にお話ししたい事が出来たから、私は一度テラスに出ることにした。
「二人きりで話たい事?」
「はい。私、このお屋敷にいる使用人達と三年とは言わず、もっと長い間一緒に居たいのです。
だから契約を延長したいですわ」
そう口にすると、グレン様は一瞬戸惑うような仕草を見せて、すぐに笑顔を浮かべた。
「俺も同じことを言おうと思っていた。
もっとレイラを見ていたいからね」
「私に興味があるのですか……?
見ていても面白くないと思いますわ」
「見ていて可愛いし、面白い。それに、一緒に居ても苦にならない。
こんな風に思えたのは、レイラが初めてだ」
そこで一旦口を閉じて、息を吸うグレン様。
次に飛び出したのは、予想していなかった言葉だった。
「今の扱いは不満が無かったら変えるつもりは無い。
レイラさえ良ければ、生涯を共にしたい。まだ未熟なのは分かっているが、必ず幸せにすると約束する」
これって告白よね……!?
グレン様って私に気があるの……?
もしかして、ずっと前から……?
「私で良ければ、よろしくお願いしますわ」
でも、嫌な気は全くしなかったから、私は素の笑顔で頷いた。
胸が煩くて不思議な感じがするけれど、治癒魔法を使っても落ち着いてくれない。
一体、これは何なのかしら?
良く分からないから、鼓動を紛らわせたくてグレン様の手を握る私。
その時、後ろから声をかけられた。
「奥様~! 主役なのですから戻ってきてください!」
「ちょっと、良い空気なのに何邪魔してるのよ!?」
声をかけてきた侍女は他の侍女に軽く叩かれていた。
でも、みんな私が戻るのを待っている様子だったから、グレン様の手を握ったまま中に戻って一歩踏み出した。
今の自由が変わらないと約束してもらえたから、この心地よい日々は続いてくれる。
みんなに認められて、私は幸せかもしれないわ。
「奥様、おめでとうございます!
絶対幸せにしますね!」
「ちょっと待て、それは俺が言う言葉……」
「旦那様に奥様は任せられません! 奥様の心を掴んでから出直してきてください!」
あら手厳しい。
ガックリとうなだれるグレン様を見て、私はつい笑ってしまった。
こんな風に些細なことでも笑える今の私は、誰が何と言おうと幸せ者に違いないわ。
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