47. 後処理です

「お義母様。復讐の方法に心当たりがあるのですか?」


 まだ食べきれていない魔物を咥えたままなブランは一旦無視して、お義母様に向き直って問い返す私。

 本音を言えば、復讐だなんて物騒なことはしたく無いのだけど……。


 誰も行動していないから、パメラ様への復讐でも民達を救うことになる。

 だから悪い選択だとは思わないけれど、なんとなく抵抗を感じてしまう。


「この国の人達にパメラの真実を広めるの。そうすれば聖女の価値は無くなると考えられるわ」

「確かに、一番平和的ですわね……」


 帰ってきた答えが思っていたよりも単純なものだったから、拍子抜けしてしまう。

 これなら手紙を出すだけでも効果は見込めると思う。


 ……完璧では無いけれど、少しの綻びが大きな綻びになるから、時間はかかるけれどパメラ様の立場を危うく出来る。

 誰かさんが婚約破棄された時と同じやり方なのは少し気に入らないから、手は加えようと思う。


 例えば……治癒魔法と同じ効果が出せる魔導具を作ったり。


「レイラちゃんが命を狙われていることは知っているから、私達も協力は惜しまないわ。

 手紙を書くのは任せて」

「ありがとうございます」

「確認するのは領主の仕事だから、そこだけお願いしたい」

「分かりましたわ」


 義両親も手を貸してくれるみたいだから、グレン様が戻ってくるまでの間に準備を進める事に決めた。


 隠さないて噂を流す行動はカストゥラ家の存続を左右するもの。

 でも、もう王家には仕えないと決めているから、グレン様が帝国で爵位を授かったら行動に移そうと思っている。


 それまでは勘付かれないようにしなくちゃ。

 



 ……そう決めたのは良いのだけど、今すぐ準備を始めることは出来ない。

 先に屋敷の後片付けをしないといけないから。


「お義父様、お義母様。私は中に戻って後処理の指示をして来ますわ」

「分かったわ」

「こちらのことは気にしなくて良いから、屋敷のことに専念して欲しい」


 そんな言葉を受けてから、屋敷の中に戻る私。


 玄関に入ると、護衛さん達が慌ただしく動いている様子が目に入った。


「奥様。中に魔物がいるので、そこでお待ち頂けませんか?」

「魔物なら問題ないわ。私でも倒せるもの」

「今回の魔物は魔法が効かないですから、奥様には無理だと思います……」


 私が入って来たことに気付いた護衛さんから心配されているけれど、別棟の修羅場を切り抜けた後だから怖くない。


「私、剣術の心得もあるから大丈夫よ」

「奥様は別棟で魔物に囲まれていても、倒された護衛を気にかける余裕もありました。

 おそらくですが、この屋敷の中では奥様が一番お強いと思います」


 カチーナもそう言ってくれたから中に入ろうとしたのだけど……。


「もう魔物は居ないよ?」


 ブランがそんなことを口にした。

 護衛さんの出番も、私の出番も無さそうね。


「それなら、怪我をしてる人がいないか探してみるわ。

 カチーナ、怪我をしてる人が居たら玄関に集めてもらえるかしら?」

「畏まりました」


 指示を出してから、カチーナが向かったのと反対の廊下を進んで、怪我をした人がいないか確認していく私。

 ここ本棟にも魔物と戦った跡があちこちに残されているけれど、別棟のように酷い状況では無かった。


 けれども、怪我をした人の数は別棟よりも多くて、私が探しただけでも六人も深い傷を負っていた。

 全員、応急処置はされていたから、命に関わる状況ではなかった。


 だから軽く治癒魔法をかけてから、一度玄関に移動してもらった。


「奥様、動けない人がいるので先にお願いしたいです!」

「分かったわ。案内して」


 玄関に戻ると、カチーナが深刻そうな表情で訴えてきたから、急いで後を追う。

 動けないほどの怪我なら命に関わることが多いのよね……。

 

「ここです!」

「ありがとう」


 扉が突き破られてしまった部屋に入ると、侍女が倒れていた。

 意識はあるみたいだけど、首から血を流している。


 護衛さんが必死に止血しているけれど、まだ血が止まらないみたい。

 そう理解してすぐ、治癒魔法を使う私。


「間に合って良かったわ……」

「奥様……ご迷惑をおかけして……」

「今は喋らないで」


 不思議なことに、傷は刃物で切られたような形になっている。

 あの魔物に噛まれたのなら命を落としていてもおかしくないのよね……。


 私が瘴気の払い方をもっと早く知っていたら、こんなことにならなかったのに。

 そう思うと、使用人さん達に申し訳ないと思ってしまう。


 けれど、私が弱いところを見せたら不安にさせてしまうから、今は胸の内に留めておく。


「もう大丈夫よ。動かせるかしら?」

「はい、ありがとうございます」

「ところで、誰に斬られたのかしら?」

「護衛の剣に巻き込まれてしまって……。

 でも、そのお陰で私は命拾いしました」

「僕の技量が足りなかったせいで、こんなことに……。

 本当に申し訳ないです」


 侍女がそう説明すると、護衛さんが侍女に頭を下げていた。

 不慮の事故だったみたいだけど、大事にならなくて良かったわ……。


 もし彼女が命を落としていたら、この護衛さんも立ち直れなくなってしまうもの。

 何よりも、大切な使用人が命を落とすことなんて、私がいる間には起きて欲しくない。


 少し気が抜けそうになってしまったけれど、玄関で待たせている護衛さん達がいるから、今度は玄関に急いだ。

 

「待たせてしまって申し訳ないわ」

「これくらいの怪我、なんて事はありません」

「何時間でも待てますから、奥様が謝ることはありません」


 強がる護衛さん達に治癒魔法をかけていく。

 腕を噛み千切られる痛みなんて、絶叫してもおかしくないのに、騒がない彼らは本当に強いと思う。


「これで大丈夫だと思うわ。

 動かせるかしら?」

「はい、動きました!」

「俺も大丈夫です! ありがとうございます」


 今回もしっかり治せて良かったわ。

 腕や足を動かす護衛さん達を見て、ようやく肩の力を抜くことが出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る