44. 避難してきました
「「お帰りなさいませ、奥様」」
玄関に入ると、侍女達総出で出迎えてくれた。
いつも思うのだけど、全員で出迎える必要ってあるのかしら……?
「ただいま。
少し気になったのだけど、私が帰ってきたら全員で出迎えないといけない決まりがあるのかしら?」
「いえ、特にはありません」
「仕事の手を止めてでも、奥様をお出迎えしたいのですわ」
「旦那様だったら、全員は集まりませんから!」
質問してみると、そんな答えが次々と返される。
仕事の手を止めさせていることに申し訳なさを感じていたけれど、みんなの善意なら気にしなくても大丈夫そうね!
私から断る前に分かった事に安堵しつつ、私室に戻ろうとする。
そんな時、カチーナから声をかけられた。
「もうすぐ昼食が出来ますので、そのままダイニングにお願いします」
「分かったわ」
剣を外さずに、そのままダイニングに向かう私。
また魔物の襲撃があるかもしれないから、近くに置いておきたいのよね。
それに、この屋敷の中に数分前からパメラ様の魔力の気配が出ているから、いつでも戦える状態にしなくちゃいけない。
武装しているのは私に限らず、この屋敷に居る使用人さん全員だ。
普通は暗殺や裏切りを恐れて使用人をすぐ戦える状態にはしないけれど、みんなを信用しているから帯剣させている。
みんな万が一に備えて剣術も学んでいるみたいだから、屋敷の中に魔物が出てきても対応できると思う。
問題があるとすれば、狙っているかのように私の周りにだけパメラ様の魔力が流れてきていること。
「おかしいわ……」
「何かございましたか?」
「私が生きてる事は知られていないのよね?」
治癒魔法を正しく使わなかった時に出てしまう魔物の原因――瘴気を狙って飛ばすことは出来ないはず。
もし狙った人のところに飛ばせるなら、私が生きていることに気付かれていることになる。
そうだとしたら、かなり不味い状況なのよね……。
「ええ。王都に潜らせている陰からも、そのような報告は上がっていません」
「ありがとう。
ブランは原因に心当たり無いかしら?」
「レイラのことを考えながら使った結果だと思うよ。死んだと思ってる相手に恨みを感じる愚か者なのかもしれないね」
ブランはそう答えてくれたけれど、これも予想でしかない。
まだ瘴気は薄いから良いけれど、これが濃くなってきたら……。
そうなる前に、対策を探さなくちゃ。
「瘴気を払う方法は無いのかしら?」
「恐らく、奥様のご実家で聞かれた方が分かるかと。
先代の聖女様の血筋なら、何かしら残っていると思われます」
「そうよね。
手紙で聞いてみるわ」
「畏まりました」
私が手紙を書く意志を伝えると、すぐに侍女が便箋と封筒を持って来てくれた。
ペンは執事が持っているものを借りて、質問を書いていく。
書き終えて丸めた手紙は、窓から領地にある家に向けて風魔法で飛ばした。
これで一分くらいで届けられると思うから、あとは返事を待つだけね。
「待たせてしまって申し訳ないわ。
昼食にしましょう」
「「はい!」」
席に戻ってから、いただきますの挨拶をする私。
それからは雑談しながらの昼食を楽しんだ。
けれども、そんな時。
「楽しそうね?」
「お義母様……!?」
「レイラ嬢が虐められてないか心配でね、こっそり来たんだ」
「お義父様まで……!?」
予想していなかった来訪者の姿を認めて、慌てる私。
魔物の事ばかり気にしていたから、平静を装う余裕なんて無かった。
「貴方、レイラさんはもう嫁いだ身。嬢と呼ぶのは不適切よ?」
「そうだったな。レイラさん、失礼した」
「呼び捨てで構いませんわ」
けれども、義両親の柔らかいやり取りを見ていたら、なんとか平静に戻ることが出来た。
何度かお会いしたことがあったのだけど、こんなに物腰の柔らかいお方だなんて想像出来なかったのよね。
あの時はかなりお堅い感じだったから……。
でも、今の雰囲気なら一緒に居ても大丈夫そうね。
けれど非礼は非礼だから、みっともない姿を晒したことを謝罪しようと頭を下げる私。
「……取り乱してしまって申し訳ありませんでした。
本日は、どういったご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「義理とはいえ家族なのだから、そんなに硬くならなくて良いわ。
用は無いけれど、暴動が起こりそうな王都から逃げて来たの」
「それと、レイラの補佐をするためだ。
いきなり領主代理は荷が重いだろうから来て欲しいと、グレンから頼まれてる」
ここに来た理由も一緒に尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。
契約結婚をきっかけに隠居に入って社交を楽しんでいた義両親だけれど、今の状況に危機感を募らせたらしい。
私としてもつい最近まで領主をしていたお義父様から補佐をして頂けるのは嬉しいことだから、本心からの笑顔を浮かべた。
「すごく心強いですわ。
ありがとうございます」
「何か分からないことがあったら、遠慮なく聞いて欲しい。
家族なのだから、遠慮は要らないぞ」
お義父様の声色は私を気遣っているもの。
申し訳なさを覚えたけれど、それよりも嬉しい気持ちの方が勝っている気がした。
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