20. 見覚えがあります

「レイラにも手を借りたい。頼めるだろうか?」


 十秒ほど考え込んでから、そんなことを口にするグレン様。

 私は最初から魔物から街を守るつもりだったから、すぐに頷いた。


「ブランも手を貸してくれるみたいなので、なんとかなりますわ」

「そうだな。そうだと信じよう」


 出来ないかもしれないと不安になるよりも、出来ると信じていた方が実力が出せるというもの。

 だから、今の私達はとにかく前向きに考えている。


 そうしないと不安に押し潰されてしまいそうなのよね……。


「昼食は後回しでも大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですわ」


 そんなやり取りをしながら、グレン様の部屋に入る。

 グレン様は奥の方から剣を二振り持ってきて、刀身が細めの方を私に差し出してきた。


「万が一間合いを詰められた時のために持っておいて欲しい。

 剣が扱えなくても、これなら大丈夫なはずだ」

「ありがとうございます。軽く振ってみても?」

「もちろんだ」


 許可をもらって剣を振ってみる。


「軽い……ですね」

「扱いやすいように作られているからね。準備が出来たらすぐに防衛線に行こう」

「分かりましたわ」


 そのまま玄関前に出る私達。

 馬車は用意されているけれど、ブランの背中に乗った方が早いのよね……。


 おまけに空を飛ぶ魔物も混じっているみたいだから、私だけブランと一緒に空を守ることになった。

 グレン様は地上の防衛部隊の指示をするらしい。


 という訳で、私は大きくなったブランの背中に乗って、グレン様は馬車に……乗らず、騎乗で出発した。


「全力で戦った方が良いわよね……」

「多分、レイラが全力で魔法を使ったら、余波で大変なことになると思うよ」

「分かったわ」


 私って、自分の限界をまだ知らないのよね。

 だからどの程度の相手なら防げるのか分からない。


 それに……ここからでも見える魔物の大群は、地面が揺れているように見えるほどだった。

 見渡す限りの魔物の群れ。


「こんなの、普通なら守り切るなんて無理よ……」

「僕がいるから大丈夫だよ」

「流石にこの数は厳しいと思うのだけど……」


 もし自分の足で立っていたら、きっと足がすくんで動けなくなっていたと思う。

 それくらいの数の魔物が地面を、空を埋め尽くしている。


 そして、その魔物の群れの真ん中を青白い光が突き抜けていった。


「ブラン……今のは何?」

「ブレスとでも言えばいいのかな? 僕の攻撃だから気にしないで」


 ブレスが突き抜けていった場所は魔物が跡形もなく消えていて、空が見えるようになっている。

 けれども魔物が進む速さは変わらなくて、少しずつ迫ってきている現実は何も変わらない。


 だから、私も空の魔物に向かって攻撃魔法を放っていく。


「もう少し強くても大丈夫かしら?」

「うん!」


 街を巻き込まないように、横に広がる攻撃魔法を放ってみる。


「少しやりすぎたかもしれないわね……」

「一回の魔法で空の魔物を全滅させるなんて、流石はレイラだね!」

「次は地面の上に居る魔物ね」


 自分が放った魔法の強さに引く私。

 これでもまだ手加減しているのだけど……ちょっとした災厄は起こせてしまいそうだわ。


 きっと国が相手でも、小さな国なら全力の魔法一回だけで滅ぼせるかもしれない。

 そんな現実は見たくないかっら、地面に降りて魔法をひたすら放って考えないようにしているのだけど……。


「レイラ! 遅くなって申し訳ない!」

「グレン様、空の魔物は居なくなったので、あとは目の前の魔物だけみたいです」

「分かった」


 ひたすら魔物に向かって魔法を使いながら、状況の報告をする私。

 戦場でも日常でも報告は大事だもの。疎かには出来ないわ。


「奥様、すごいな……」

「こりゃ、俺達の出番は無いかもな」

「一騎当千どころか、一騎当国だな。奥様を敵に回してる人達は馬鹿なのか?」

「旦那様も大概だが……こりゃ驚いた」


 なんだか一緒に来ている護衛さん達がぼやいているのだけど、悪口ではないみたいだから気にしなくても大丈夫よね?

 そう思った時。


「レイラ、魔物が増えるかも!

 王都の方から瘴気の塊が飛んできた」

「瘴気? どういうものなの?」

「簡単に言うと、瘴気がある場所で魔物が生まれるんだ。

 その瘴気が目の前に落ちてきた」


 ブランが説明し終わるのに少し遅れて、魔物が私達の目の前に現れる。

 ここは魔法の間合いじゃない。


 ……噛まれる。

 真っ直ぐに魔物が私に飛び掛かってきても、一歩も動けなかった。


 この辺りに漂う魔力に見覚えがあったから。

 一体、誰の魔力なの……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る