ACT♦2 -08 弾丸は12発


「よー、おっかない顔した嬢ちゃんたち」

 トリウマ繋で水をやっていた男が、ニヤ着いた顔を向けてきて言った。

「でっかい銃下げて綺麗ごとかしたところで、俺たちゃここに十人居るんだぜ。あんたらは二人だ。……これ以上保安官を困らせねぇで、さっさと詫びを入れてぇりな」

 それから哄笑。周囲の助手らも一斉に笑う。彼らにしてみれば威嚇のつもりなのだろう。

「それとも俺たちの〝お相手〟をしてくれるってか?」

 笑いのなかに、下卑たものが混じった。


「十人なら、わたしたちふたりで相手できます」

 そう応えたのはマルレーンの方だった。テンガロン風の大きな麦わら帽子を左手で押さえ、右手で男たちを一人ずつ指して数えている。

「はあん?」

 緊迫感のないその声音に、助手の男の声も調子が外れたようになった。

「わたしの銃に6発、ミス・ラングランの銃に6発……弾丸たまは12発ですから2発は〝お釣り〟の勘定です」

 マルレーンの淡々とした言い様に、汐が引いていくように笑いが止んだ。


「……んだと?」

 最初に笑い出した男が、不用意にホルスターに手を伸ばしながらマルレーンを睨む。

 マルレーンは、まったく動ぜずに応じた。その声はやはり屈託ない。

「わたしも御託はもう聞きたくないです。やります?」

 ラーキンズが、よせ! と声にするよりも先に、男の手は動いていた。

 銃声が一発――。


 マルレーンのグラマラスな長身は微動もせず、腰の位置には、抜き身の銃身から煙が立ち昇っている。

 一方、男の方は右手を押さえて屈みこみ、足元に銃が転がっていた。

 この間に銃を抜けた男どもは十人のうち三人だったが、ハンマー撃鉄を起こせたのは一人だけ…――それも、抜き終えていたオレリーの銃口に動けなくホールドアップとなっている。


「これで11発…――十人相手だと流石さすがにもう余裕ないですから、銃を〝とばす〟なんて器用なことはしてあげれません」

 マルレーンはその顔から表情を消し、一オクターブ低くなった声で淡々と続ける。

「死んじゃうことはないようにしますけど、目の球の一つや、指の一、二本、失くなっちゃうかも知れません。……もし膝の皿なんか砕いちゃったら、残りの人生、杖が必要になりますね」

 男どもは皆、隣の誰かの喉が、ごくりと鳴ったような気がした。


「やめないかっ!」

 時機を見計らって、ラーキンズがその野太い声で場を制した。

「ここは保安官事務所の面前だぞ、場所柄を考えろ! 何を考えてるんだ……まったく!」

 そうどやしつけられて男たちは〝ラーキンズの顔を立てる〟という体裁を得て、ようやく緊張を解くことができた。

 この場合、ラーキンズが懸命だった。このままいけば確実に流血沙汰だったろうから。



「ミス・ラングラン……それにミス・ソーメルス――」

 場をお開きにし男たちを追い払ったラーキンズが、あらためて〝女渡り〟ふたりを見た。

「それで、〝話〟は何だったのかな?」

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