銃と乙女 ― Guns and Girls ―

ACT♦２ -０４ レンジャー（駝乗警邏隊）

「ひどい話ですね！」

　カウボーイらの話を聞き終えるや、マルレーンは目を吊り上げて誰にともなく言い募っていた。

「そんなこと、許されていいはずありません！」

　昂（たかぶ）った感情に、大きな胸の前で両の拳を握ってみせる。

　一方のオレリーは、そんな彼女に同調することなく、〝冷静であれ〟と自身にも言い聞かせるような表情を崩さずに男たちを見返した。

「あなたたちの話が本当かどうか、わたしには確かめる術（すべ）がないのだけれど…――」

　両極端な〝女渡り〟それぞれの反応に、男たちの表情もさまざまだが、総じてオレリーの〝逆接の接続助詞〟には好意的でない表情が浮いている。オレリーは、心の中で自分を励まして続けた。

「――いまの話には十分に道理があると思う。だから、保安官も判事も信用できないのなら、もっと上位の裁定機関に話を持ち込んだらどうかしら」

　そこで言葉を切る。それは話を先に進めるためのオレリーの〝誘い〟だ。

「上位、ってえと……？」

　果（は）たして、カウボーイらを代表してリーダーがオレリーの誘いに乗ってみせた。

「……それはやっぱり〝レンジャー〟だと思うの」

　オレリーは、フロンティア（辺境）で最も信頼される法執行機関の名を挙（あ）げた。

　レンジャー（駝乗（だじょう）警邏（けいら）隊）は、広大なフロンティアに点在するタウンが寄り集まって（同盟して）構成する〝タウンシップ〟にあって、それぞれの町の法権限の〝外側〟、より広域の治安維持を担う半独立組織である。

　遥かな昔に海を渡って来た者らの末裔たる大陸の住人は、自主自立の精神を貴（とうと）び、東の海の彼方に栄えていたという祖先の故郷にあった〝国家〟という概念を持たない。

　ここフロンティアにおける最大の統治機構は、町が盟約によって結ばれるタウンシップなのだが、そこでも町を超える権限を持った中央機構は存在しない。建前上、盟主は「各加盟タウンそれぞれ」であり「各タウンの権利は平等」ということになっている。あらゆる議案は全会一致による承認・決定が原則で、多数決の制度は採用されていない。

　時間は掛かるが、この世界では、構成員の自主性を重んじた意思決定が尊重される。

　大陸のそういう意思決定機構のなかで、唯一の例外と言っていい権能を与えられた集団がレンジャーだった。

　警邏（パトロール）中の緊急事態に即応する必要上、隊には独立した行動の自由が保障されており、それが故（ゆえ）に、必要であればタウンシップの意思決定に反した行動を執ることもあった（ただし、事後にタウンシップによってその妥当性は評価される）。

　町の保安官もタウンシップの巡回判事も信用できない今（ヽ）回（ヽ）の（ヽ）よ（ヽ）う（ヽ）な（ヽ）事案こそ、当（まさ）にレンジャーの独立性が必要とされる事態なのだと、そうオレリーは考えたのだ。

　道理と正義とを信じる少女の生真面目な表情（かお）に、カウボーイらは心を動かされたようだったが、リーダーは即答を避けた。

　ひとまず町に戻ったオレリーとマルレーンは、彼らの言い分をコミッショナーに報告し、私見を添えた。

　町長と判事の関係に疑義がある以上、疑義が晴れるまでは、ロータリは中立であるべきだ、と。……コミッショナーは、それを了解した。

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今回は「得物」（＝武器）を離れて〝ウエスタン〟な舞台装置／小道具としての「レンジャー」について。

レンジャー―― 作中の正式名称『フロンティア・レンジャー（辺境駝乗警邏隊）』は、もちろん「テキサス・レンジャー」（以下TR）を焼き直したものです。

違いと言えば、見た目の違いは馬でなくトリウマに乗っていることと制服があること。中身の違いは結構あります。

この大陸世界には国家、州政府や連邦政府は存在しないこともあり、作中では唯一・最大の武装組織であります。……つまり「騎兵隊」の要素も持っている。

また、TRが法執行機関であるのにたいし、大陸世界のレンジャーは上位裁定を担う司法機関の側面も持っています。

これは自主自立を尊ぶ大陸世界において、在地の司法権が対立した場合の調停者の機能を持たせているためで、捜査権以外の全ての警察権と、捜査・検察権を除く司法権を併せ持つ特異な存在となっています。