ACT♦2 -01 ふたりの〝女渡り〟


 まだ太陽が正中の位置に掛かるよりも前に、ふたりの〝女渡り〟は酒場サルーンを出て、カウボーイらのたむろす南の道沿いの古い小さな伝道所跡へと向かった。

 オレリーとマルレーン…――女ふたりだけで訪ねることにしたのは、最初から相手を刺激するようなことを避ける意図からだった。少なくとも〝ドク〟・アチュカルロが、その得物――イーストエンドM2873 大口径ライフル銃――の長銃身をさらして近づいていくよりは、ずっとように思われた。

 もっとも、エミールばかりはに反対で、言い出したラーキンズ保安官に険呑な視線を向けて抗議した。オレリーが彼を宥めて、町外れで待つように指示したのだった。



 大フロンティア辺境の乾燥した大地の上を砂塵が渡ってゆくなかを、ふたりは並んで歩いていた。


 少しばかり流行遅れオールドファッションな青紫色の旅行ドレスを纏うオレリーは(……目もとの表情こそ少々ではあるが)一見して可憐な少女である。スカートの上に巻かれているガンベルトは、違和感すら感じさせている。


 隣を歩くマルレーンは、すらりと長い手足をした長身の娘で、頭にのせた鍔の大きな麦藁帽から伸びた〝向日葵のような金髪〟が目をいた。表情豊かな顔に浮かべる〝向日葵のような〟笑顔もあって、ともすればお堅い表情になりがちなオレリーよりも若く見える。

 流行の赤白ツートーンのボディ・コンシャスな旅行ドレス。フレアスカートの右側には大胆なスリットが入っていて、白い太腿と、細い腰のガンベルトから吊るされたホルスターが覗いているのだが、こちらもやはり〝凄腕〟のガンスリンガー拳銃使いには見えなかった。


 そんな乙女ふたりが、伝道所跡までの道すがらに交わした会話はこんなものだった――。


「オレリー? ……サンドリーヌ? サンドラ守護者?」

「ミス・ラングラン!」

 まとわりつくように訊いてくるマルレーンに、オレリーは面倒そうに応じる。だがマルレーンはめげない。

「んー、かわいい顔に、そんな老け込んだ呼び名は似合わなーい」

 長身を屈め、オレリーの横顔を覗き込むようにしてくる。

「…………」

「サンドリーヌも〝かっこかわいい〟けど、ちょっとお堅いかなー」 などと独りでぶつぶつと続け、挙句、「……うん、やっぱりオレリーがいいです」

 と笑顔になって言ったものである。

「――…あなたの金髪かみの方が、よっぽど〝オレリー金色の〟だけれどね」

 人目を惹いて余りあるマルレーンの艶やかな金髪に、赤毛のオレリーが、ぶす、と返す。マルレーンは、手をぱたぱたとやって応えた。

「や、や…――そんなことない、ない。あなたは外面よりも内面が〝オレリー黄金の輝き〟なの。うん、オレリー。これで決まりです」


 オレリーは、もう何も言わなかった。

 酒場サルーンの二階の部屋に訪ねてきた日以来、度々たびたび繰り返された本事案は、マルレーンの一方的な宣言で決着したようだった。



 そうして歩いているうちにも、ふたりは南の道の端に建つ伝道所跡にやってきていた。

 建物へと到る小路の入口には、ヴィンチェストライフルを手にした見張りが立っている。





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すっかり【あとがき】は得物(アームス)の解説コーナーの趣きとなりつつありますね。(笑顔)


さて、今回は〝ドク〟ことアチュカルロの得物―― イーストエンド M2873〝トラップドア〟です。

イメージモデルは「スプリングフィールドM1873」


単発の後装式ライフルで使用弾は .45-70-405 (.45口径、火薬量70グレイン、弾丸重量405グレイン)。1発ずつ装填します。

ボルトアクションではなく跳ね上げ扉のあるブリーチブロックというギミックの尾栓の小銃です。ちょっと古い感じの、右寄りの位置のハンマーを〝カチリ〟と起こして撃つアレ。


大陸の東端イーストエンドにある工廠で造られた長銃身(32.5 in)の狙撃銃で、かつては大陸の各地に〝対ビースト用〟として配布された大威力のライフル銃、という設定。

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