14 リュドミラという女②
リュドミラはスヴェトラーナとアナスタシアが食事をしているのをただ、じっと見守っていた。
特に何かを言う訳ではなかった。
その姿は久しぶりに会えた孫娘を見守る心優しい祖母と勘違いされてもおかしくないものだ。
見た目は全く、老女ではなかったが。
「もっと食べたいかい? まだまだ、あるから遠慮するんじゃないよ」
偶に口を挟んだかと思えば、言い方こそ、少しきついものの思いやりに溢れている。
スヴェトラーナとアナスタシアはこの時、戸惑うばかりだった。
予想していた姿との違いに気圧されてもいた。
ルスランから、聞いていた話では百歳くらいの老女という情報だけである。
気難しいところがあり、下宿人が退去したのもそれに起因すると聞いていた。
「まあ。そのなんだね。会ってみれば、分かることだ」とルスランは口を濁した。
すわこういうことかとスヴェトラーナは頭の中で思い描いたルスランの顔に強烈な張り手をかまし、憂さ晴らしをする。
「本当に大丈夫なのです。十分にいただきましたので。メドヴェージェフ夫人」
「そ、そ、そですぅ」
脳内で憂さを晴らしたお陰か、落ち着きを取り戻したスヴェトラーナは淑女の微笑みを浮かべる余裕が出てきたようだ。
しかし、その断り方が気に入らなかったのか、リュドミラは眉間に皺を寄せ、美しい相貌をやや歪にしている。
その様子に食べることに夢中だったアナスタシアの動きも自然とスローモーションになり、今や固まっていた。
「あたしゃね。その呼ばれ方があまり、好きじゃないんだよ」
リュドミラの目は逆三角形と化し、今にもまくし立てんばかりの勢いである。
勢いに竦んだのか、アナスタシアの顔色は心無し、青白くなっていた。
「じ、じゃあ、おばあ……」
「それはもっと、嫌いでね」
「ひぃ」
リュドミラとアナスタシアのやり取りを見世物でも見るかのようにどこか他人事の如く、観察していたスヴェトラーナはフォルカスであった頃にはついぞ感じたことのない感情を確かに抱いていた。
これが家族というものに違いないとスヴェトラーナは半ば、感動すらしている。
フォルカスには力があった。
知恵もあった。
だが仲間はいなかった。
家族もいない。
常に孤独を強いられていた。
騒々しくもあるこの状況が彼女にはどこか、微笑ましく思えるのだ。
「ではリュドミラさんでよろしくって?」
「さんはいらないよ。よそよそしいじゃないかい」
相変わらず、つっけんどんな言い方だった。
リュドミラの目は言い方とは裏腹に優しく、温かな光を帯びたものだった。
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