第71話 再会
まだ顔を出さない太陽が東の空に明かりを灯し、起伏のある地平線をくっきりと浮かび上がらせている。
朝日が夜の闇を押しやって影が生まれ、やがてその存在を小さく弱めていく。
夜のうちに降った雨が地面を洗って、血の痕跡はわずかに残るだけとなっていた。
朝の光を抱いた霧が世界を白くぼやけさせて、光に包まれたその向こうから馬の足音が近づいてくる。足音は複数。けれど、霧がそれらを隠して姿はまだ見えない。
外に出ていた村人は今度は何だとばかりに慌てて家の中へ入って、恐る恐る外をうかがっていた。それはヒュルプも同じだった。慌てた様子で家に入ってきたかと思うと窓に張り付いて外を気にしている。
「どうしたんだい?」
母親は鍋をかき混ぜながら片手間にそう聞いた。
「誰か来るみたい」
「え?」
ランシャルも気になってヒュルプの後ろから外をうかがう。
2人が見つめる白い世界に、太陽を背にした影がゆらゆらと浮かんで見えていた。灰色の影は近づくほどに形を成して、人馬であることが確認できるほどになっていく。
「・・・・・・あ」
ランシャルはそのシルエットに見覚えがあった。
「ランシャル!?」
確かめたくて、一刻も早く誰だか知りたくて走り出す。とまどうヒュルプを残してランシャルは扉を開けていた。
ステップを駆け下り地面をけって走り寄る。
馬と馬上の人物の輪郭がはっきりしてきてそれに色が付く。その頃にはもうランシャルの目は潤んでいた。
「シリウスさん、ロンダルさん、ルゥイさんも」
そして後続の者達の姿も見えてくるとランシャルの胸は熱く踊った。
癒しの力を持つ医者を呼びに、馬を走らせたラウル。
「ラン!!」
元気な声が駆けてきてランシャルは思わず声へと走り出した。
「ラッド!! よかった!」
馬からするりと下りたコンラッドへ、飛び付くように抱きついて互いに跳ねて回転して背を叩き合う。
「おい、泣くなよ」
「ラッドだって」
涙で光る互いの顔を見て笑い、互いの頬をぬぐい合ってまた笑った。
「ご無事で、良かった」
そう言ったダリルの声はいたって健康そうで、ほっとしながらもランシャルの目は彼の首を確かめていた。
(あれは、夢じゃ・・・・・・なかったんだ)
何度も夢で見たダリルの戦う姿。
ダリルにまたがった男の剣がダリルの首へと落ちていく光景をいまもはっきりと思い出せる。
「無事で良かった」
ぽつりと言ったランシャルへコンラッドがお喋りを始めた。
「診療所に敵が来て大変だったんだ」
「うん」
「ダリルさんがこうやって、こうして」
身振り手振りも大きくコンラッドの一人芝居が始まる。
「もう駄目かと思ったときにラウルさんが颯爽と駆けつけて・・・・・・」
ルークスの治療と合わせてダリルの傷も癒しの力で治してもらったのだろう。
(あの夢は過去見の力だったんだ)
ダリルの首に残った傷跡を見てランシャルはそう実感した。
コンラッドのお喋りは続き、その後シリウスの後を追ってガルダの町で合流した話やその道中のことなど話は尽きない。
「コンラッド、それくらいにしておけ。これからいくらでも話せるから」
ラウルに止められてようやくコンラッドのお喋りは終わった。
ふと気づけば、見知らぬ顔がいくつかこちらを見ていた。
「しばらく同行する部下達です」
彼らへ目を止めたランシャルへシリウスが紹介する。
「この方が新王様だ。失礼のないように」
20代後半らしき若い騎士が3人、ランシャルへ頭を下げた。
態度は礼儀正しい。けれど、そっと向ける彼らの目がそれとなく、それでも興味深そうに見ていることが伝わってくる。
ランシャルを確認した彼らの瞳に敬意はまだ感じられない。それは、ヒュルプの服を着ているからだけではないと思えた。
ランシャルに特別な何かが感じられるかと、
少しの居心地の悪さを感じていたとき、後ろから声がかかった。
「ランシャル。この人たちは?」
おずおずと声をかけてきたのはヒュルプだった。もうその頃には村人達は家から出てきていて遠巻きにこちらの様子をうかがっていた。
親しそうにランシャルの名前を呼んだヒュルプへ、コンラッドの目尻がつと上がる。
「俺、コンラッド。ランの大親友だ。よろしく」
そう言って、有無を言わせず握手を交わす。
「あ、うん・・・・・・俺はヒュルプ」
笑ってはいるものの威嚇する目で見てくるコンラッドに、ヒュルプは押され気味に笑いを返していた。
朝食を済ませ、ランシャル達が支度を整えた頃になっても村長は顔を見せることはなく、村人に見送られてランシャル達は村を後にすることとなった。
楽しく交わすコンラッドとの会話はぽつぽつと続き、だいぶ情報を共有できた頃、コンラッドはランシャルをまじまじと見つめてこう言った。
「なんだか、少し見ない間にたくましくなったな」
それはまるで父親が久しぶりに合う息子へ言うような口調で。
「ぷっ、なにそれ」
「いや本当、威厳っていうの? どこか堂々とした感じがする」
我が子の成長に驚く親みたいな口ぶりに、ランシャルだけではなく他の者も一緒に笑っていた。
「ラッド、忘れた?」
「ん? なに?」
「いま、同い年期間だよ。弟扱いしないで」
「あぁそうだった。誕生日きたよな。でも、すぐ俺が年上になるけどな」
そう言ってコンラッドはにっと笑った。
「ねぇラッド」
「ん?」
「ラッドは、僕にどんな王様になってほしい?」
目をしばたたいたコンラッドはしばらく考え込んだ。
「どんな王様? んー・・・・・・」
空を見ながら考えるコンラッドの眉間からシワがパッと消えて、ランシャルへ顔が向けられた。
「ランはランがなりたい王様になって、したいことをしたらいいと思う」
まっすぐ笑顔を向けるコンラッドに迷いは感じられなかった。
「僕がしたいこと、しても大丈夫?」
「大丈夫」
「怒ったり嫌いになったりしない?」
少し迷いながら言いにくそうに聞くランシャルへ、コンラッドは軽い調子で返す。
「ランは俺が怒ったり嫌いになるような事はしないと思うから、大丈夫」
少しうつむき加減だったランシャルの顔が上がった。
「もし、国中の皆がランを嫌いだっていっても俺はランの味方だ」
拳を突き出すコンラッドに応えて、ランシャルが拳を合わせる。
顔を見合わせて笑顔を向け合う2人の背を太陽が見送っていた。
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