第8話 限界ヲタク、影山 陽夏①
【動画】例のコスプレ集団
合成? 加工? モンスターと戦う戦隊ヒーロー!
【拡散】迷惑系集団? 病院で大暴れwww
戦隊ヒーローヲタ、ついに極まってしまうwww
病院での一件の後。家でエゴサ? らしきことをしてみたが、まとめサイトでは既にいくつか悪意のある見出しでまとめられていた。
#モンスター
#ヒーロー出現
#フェイクヒーロー
#病院 ヤバい
SNSでも似たようなものだ。動画がいくつか上がっていたが、どれもこれも加工を疑われていて、まだそれほど大きな話題にはなっていない。仲間を勧誘するなら早くしないと悪い意味で話題になった後ではロクな人材に巡り合えないだろう。
「ベアリー、ゴウのところに通信機は置いてきたんだよな?」
「ハイ! これでいつでもゴウとは共闘できます!」
「そっか、ところでガケップ値の反応は無い?」
「……キワム。その質問は家に帰ってきてから二十回目ですよ?」
「マジか。すまん。で、どうなんだ?」
「ありません!」
「そっか……」
さっさと仲間を集めて楽がしたい。
そう言えば、入院生活が終わって、俺は自宅へと帰還を果たした訳だが、それはつまりベアリーとの同居を意味してしまう。年頃の娘と。二人暮らし。変な噂が立っただけで一発アウトの事案だ。見た目は悪くないベアリーであるからして、どうしても注目を集めてしまう。このままでは早晩警察の御厄介。そういう意味で、次の仲間は女性であって欲しい。どうにかしてベアリーを押し付けねば。
「なぁ、ベアリー。ガケップ――」
「ヴァァァァァァッ!!!」
「さ、叫ぶな叫ぶな。ファブ○ーズしたベッド使っていいから」
よし、もう寝よう。俺は、スゴスゴとドアを隔てた廊下に布団を放り出し、眠ることにした。
☆☆☆
『謎のヒーロー現る!』
空想は、最悪の形で現実となった。都内某所、総合病院で起きた異変はご存じだろうか。数多ある創作物で敵対勢力として描かれる怪物、ゴブリン。それが、現実に現れたというのだ。ただ、こう書くだけでは『ゲーム脳』だの、『漫画の読み過ぎ』だのご指摘を頂くことは想像に難くない。だが、今回の事件には多数の目撃証言と、いくつかの動画が存在する。そして、そこにはさらに驚愕の事実が収められていたのだ。
※動画①※
お分かりいただけただろうか。
空中に現れた黒い空間から次々飛び出す醜悪な小男の群れ。そして、辺りに立ち込める黒い靄。現れたそれらは、まるで狩りでも楽しむかのように棍棒を振り回し、無差別に人々に襲い掛かっている。世間ではフェイクだ、加工だと相手にされていないが、これは紛れもない本物であると筆者は断ずる。ここまでリアルな質感を再現することは現在の技術では不可能だと思われるからだ。
だが、とんでもない事件にも関わらず、この事件に関する報道や発表が極端に少ない。何故か。警察が関わる前に事が済んでしまったからだ。動画にはさらに驚くべきものが残っているのである。
※動画②※
不可思議な名乗りと共に、一人の男(?)が現れた。まるで、戦隊ヒーローの様な赤いスーツに身を包んだ人物である。現時点で彼がただのコスプレイヤーなのか、特殊な訓練を積んだ戦闘員なのか、特定することは出来ない。だが、その戦闘技術は本物である。襲い掛かるゴブリン(仮称)をいとも簡単に打ち倒していくのだ。
周りの右往左往する一般人の反応を見ればその力量差は一目瞭然。だが、悲しいかな、数の暴力の前に彼は防御を選択せざるを得ない。なぜなら、彼の体の下には今まさに襲われていた少女がいるからだ。絶体絶命のピンチ! そこに現れたのが――
※動画③※
もう一人の(こちらも恐らく)男。今度は青いスーツに身を包んでいるのだが、その戦いぶりは赤い男と同様、一般人とは一線を画すもの。敵を引き付け、赤い男と共に少女を病院内部へと逃がす。後顧の憂いを絶った彼らは謎の装置や残ったゴブリンを瞬殺。そうして、何やら地面を探った後、目にも止まらぬ速さで立ち去ったのである。
彼らの名乗りを信じるならば、彼らは『ギリギリ戦隊 ゲンカイジャー』とでも呼称すべきだろうか。些か間の抜けた名前ではあるが、その実力は本物。断言しよう。彼らは、地球を救うべく現れた“ヒーロー”なのだ。動画を見て頂ければわかる通り、彼らは明らかに危害を加えようとする敵から一般人を守っている。マッチポンプと言われればそれを否定する材料は無いが、仮にそうであるならば、我々が断罪しなくてはならない。いずれにせよ、
「当サイトでは彼らの活躍を今後も引き続き追って、いきたい、所存……であ……る。っと」
カタカタとタイピングの音だけが鳴り響く薄暗い部屋。その部屋の主である
学業の合間に開設した特撮ヒーローファンサイトを作成して早三年。気が付けばとうとう高校を卒業する年になってしまった。
希望する進路を提出すれば親を呼び出され、両親からは何を考えているんだと嘆かれ。それもそのはず、彼女の希望する進路欄には一言『ヒーロー』と書かれるのみ。
もう、さすがに分別のつく年齢、世間では成人と呼ばれる年齢である。彼女の行為が悪質な冗談か、思考の放棄と捉えられるのも無理は無い。
だが、彼女は至って本気である。
彼女は決して目立つタイプの人間ではなかった。クラスの中ではどちらかと言うと無口でおとなしい人、とだけ認識されていたが、勉学や運動科目全般において彼女は優良であった。だが、その全てが“ヒーロー”になる為の努力であるという事は、彼女以外誰一人として考えもしていなかった。
「くぅ~! でもまさかこんなヒーローが現実に存在するなんて!」
彼女も、いわゆる“ヒーロー”に憧れはするものの、それにどう至るかという道筋は掴みきれずにいた。いっそ、ヒーローと呼ばれる弁護士や、警察官に目標を修正しようとしたのも一度や二度では無い。だが、彼女が本当になりたいのは、今まさに話題になっている“彼ら”のような存在なのだ。
「ヤバいでしょ! この動き! それに剣!」
「うは〜、女の子助けてるし! カッコよ!!」
もうそれぞれ百回は再生した動画をもう一度始めから見返す。小さな頃から憧れていた、特撮系のヒーロー。それが今、現実に起こった事件としてネットを賑わせている。
「ピンク居るのかなぁ。居ないならボクがやりたいなぁ」
ネットで拾うことが出来たのは、病院襲撃事件の動画だけ。彼らが、何者なのか動画の真偽を含めて考察が進んでいるが、現時点ではあまりにも情報が少ない。
「いや、やる。絶対ボクもヒーローになるんだ。幸いこの病院は近くだし、ボクが一番に彼らの正体に近づいてやる!」
そう言うと、陽夏はパソコンを閉じ、外出の準備を始めた。例の病院に向かうために。
そう、これは彼女にとってまたとないチャンスであり、そして恐らくは最後のチャンスであろう事を理解していた。
憧れの“ヒーロー”になるために。彼女は勢いよく部屋を飛び出した。
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