202話:《光》の魔法
「やあ、来てくれたね。クシシ……窓からの登場とは、いかにもそれっぽいねぇ?」
「いや、さすがにこの格好じゃ扉から入れないでしょ」
「別に着替えなくてもよかっただろう? 若い男の衝動をぶつけるために、魅力的な女性の部屋へ押し入ってしまうのは仕方のないことさ」
「はっ」
ベッドに腰かけながら自分の体を抱きしめているフェイルさんを一瞥して鼻で笑う。
たしかにエルフなだけあって顔は良いのだが、如何せん彼女の性格も踏まえればマイナスでしかない。それこそ手を出そうものなら、献血も真っ青なほどの血を抜かれかねないだろう。
あと生活面。顔は良くてもトータルでマイナスの彼女には魅力というものは感じられるはずもない。
「で? さっきの話、どういうことなんです?」
「む? もう少し冗談に付き合ってくれてもいいだろうに。遊びのない男は嫌われてしまうよ?」
「そういうのいいですって」
ほら早く、とフェイルさんを急かす。
万が一を考えて《
だってこの部屋の隣、あの王女様がいるんだぜ? そりゃ速く終わらせたいし、慎重にもなる。
そんな
「光の魔法。そう言いましたね?」
「言ったね。それはもうはっきりと」
「たしかに、俺はダンジョンでそういう力を新たに手に入れました。でもそれは、俺にすらよくわかっていない……なんなら、誰にも話してすらいない。なぜそれをフェイルさんが知っていて、それが光の魔法だとわかったんですか?」
腕組みをしたまま俺の話に耳を傾けるフェイルさん。
そんな彼女はピンと人差し指を立てると、「一つ誤りがあるね」と俺に視線を向けた。
「君はダンジョンでその力を手に入れたと言ったが……そうじゃない。その力そのものは、すでに君が持っていたものだよ。少なくとも、ダンジョンに行く前にはね」
「すでに、持っていた……?」
フェイルさんの話を聞き、思わず言葉が零れてしまう。
俺はてっきり、あのダンジョンという謎空間でピンチに陥ったからこそ、覚醒してかっこよく身に着けたのだと思っていたのだが……どうやらそうではなかったらしい。
「そうだとも。魔法学校に教師としてきたことがあっただろう?」
「ああ、ありましたね。あの俺を嵌めるために用意したって依頼」
「クシシ……あまり褒めないでくれたまえ。その依頼の最後に採血をしただろう? その血液を《ワカルクン!》を改良した《モット! ワカルクン!》で調べてみたんだが……基本の四属性と空間属性と見られる反応の他に、もう一つ別の反応があったのさ!」
「なん、だと……!?」
これは驚いたと、こちらもフェイルさんの反応に合わせてオーバーなリアクションを返す。
その反応に気分を良くしたのか、フェイルさんは「そうだろう驚くだろううんうん」としきりに頷いて何かを取り出した。
出てきたのは、以前魔法学校でも彼女が使用していた小皿と針。そして粉末の入った試験管。
「さあどうぞ?」
「唐突ですねふざけてるんですかこの野郎」
「私は女さ。それより、気になるのなら進んで協力したまえ。その方が早く終わる」
さあ! さあ! と三点セットを手に迫ってくるフェイルさんを「鬱陶しい」の一言とともに手で押しのける。
まぁすでに彼女には俺のことはバレているのだ。いまさらこの程度を拒否するつもりもない。……それはそれとして、この人に強要されてやるのも癪だが。
仮面の下で顔を顰めながら少量の血を小皿に垂らす。
その様子を目を輝かせながら至近距離で見つめるフェイルさんは、俺が「どうぞ」と言い終えるよりも前に小皿を奪い取り、そこへパラパラと《モット! ワカルクン!》であろう粉をかけた。
以前の《ワカルクン!》と同じように小皿の血液に変化が現れる。
その変化は俺にもわかるほどに顕著なもので、話を持ってきたフェイルさん自身も「ほうほうほほう!?」となぜか驚きの奇声をあげていた。
「……なんか光ってますね、それ」
見れば、月明かりとランプの明かりしかなかった部屋の中で、真っ白い光が周囲を照らしていた。
「ふうむ……前に見た時は、よく見てやっと見えるくらいだったんだがねぇ? 成長でもしたのかな?」
「……魔法の属性って、成長するものなんですか?」
小皿からフェイルさんへ視線を移すと、彼女は腕組みをしながら首を傾げていた。
どうやら彼女も初めて見る事例らしい。光っている小皿を手にとり、あちこちから眺めては唸り声をあげている。
「……ふむ、なんとも不思議な事例だねぇ。帰ったら詳しく調べてみようじゃないか」
「そこはお任せしますよ。で? もともと俺がこの力を持ってたという話には納得しましたけど、なぜ光の魔法だと?」
「あくまでも、仮定として《光》の属性だと定めただけだけどね。けど、これだけ光っているんだぞ? 《光》以外の名前を仮でもつけるなんて、それこそ非常識さ」
だろ? と光りっぱなしの小皿を掲げて同意を求めるフェイルさん。
そんな彼女に、俺はたしかにと頷くほかなかった。
聞けば、彼女の特異属性である《木》は木目の模様を、俺の《空間》は渦を巻くらしい。光が邪魔で見づらいが、よく見れば渦を巻いているのがわかる。
四属性を示す四色は、もうほとんどわからないくらいだ。
ネーミングセンスはともかく、フェイルさんの作った物の効果は信用している。
なるほど。本当にあの魔法学校の一件の時には発現していたというのなら、彼女が知っていることにも納得はできる。
「それに、ただ光っているから《光》の属性と判断したわけじゃないのさ。ちゃんと前例があるからこそ、私はそうだと仮定している」
「前例?」
尋ねる俺に、「おや、忘れたのかい?」とフェイルさんが返す。
そういえば、最初にフェイルさんと会った際、《ワカルクン!》の紹介と一緒に特異属性についての話があったように思う。
フェイルさんの《木》の属性は覚えているが、他の属性だとたしか……
「勇者……ですか?」
脳裏に蘇った記憶。そこでフェイルさんが口にしていた《光》の属性の前例、その使用者の名をだせば、彼女は「その通り!」と笑った。
「およそ八百年前、魔王討伐を果たして世界を救ったという勇者! その彼が使っていたのが、《光》の魔法なのさ!」
そう言って彼女はもう一度懐を探ると、今度は一冊の本を取り出した。
だがただの本ではないらしい。革張りの表紙は長い時を経たのだとわかるくらいにはボロボロで、中のページも黄ばんで見るからに古くなっているのが見て取れた。
いったいいつの本なんだと聞けば、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「八百年前さ」
「はっぴゃ……!? よ、よくそんなのが残ってましたね……」
「ああ、これについては私が幸運だったのさ。クシシ……わざわざエルフの里に戻って、しこたまおばば様に怒られた甲斐があったよ」
その時の事でも思い出したのか、喋りながら顔を青ざめさせるフェイルさん。
なんでも俺がダンジョンに潜っている間、わざわざ西の端っこにあるエルフの里まで戻っていたらしい。
それもこれも《光》の属性について調べるためであり、過去唯一の使用者である勇者についての資料がないかを探すためだったそうな。
一般にはおとぎ話レベルでしか残っていなくても、長い時を生きるエルフであれば何かしらの資料か、あるいは当時を知るエルフがいる可能性がある。
そしてその調査の末、彼女が持ち帰ってきたのが一冊の本だった。
「それで、その本には何と?」
「まあまあ、そう焦らずともちゃんと答えてあげるさ。まさにこの本は、僕の求めていた答えをくれた本だったよ。……内容のほとんどは、勇者に向けての恋文みたいな内容だったけどね。いやぁ、恋する乙女の甘酸っぱい妄想がここまでむず痒いとは……君も読むかい?」
「結構です。共感性羞恥で俺にもダメージ来そうだ」
差し出してくるそれを拒否し、簡潔に《光》の魔法がどのようなものなのか、その説明だけを求めた。
「なんだ、つれないなぁ。まぁいい、結論から言おうじゃないか。勇者の使っていた《光》の魔法。それにはあらゆる魔を退ける力があったそうだよ」
「あらゆる魔……?」
「らしいね。魔法を退ける……つまり、無効化してしまうことはもちろんのこと、魔物や悪魔、魔王には特に強力な力を発揮したと書かれていたよ。魔法の無効化なんて、私たち魔法使いにとってはまさに天敵みたいな属性だねぇ!」
さすが勇者だ、とフェイルさんが興奮してテンションをあげる中、俺は一人ダンジョンで初めてこの《光》の魔法を使った時のことを思い返していた。
ダンジョンで影に飲まれてしまった俺が助かったのは、どうやらそんな力があの光にあったからだろう。
実際に魔法を打ち消したという話をすれば、「やはり仮説は正しかったか!」とフェイルさんが喜んでいた。
しっかし、魔法の無効化とは……恐ろしい力を持ってたもんだな、勇者ってのは。
「……フェイルさん。俺、一ついいことを思いつきました」
「そうだね。私も予想はつくよ」
「……これ、洗脳解除とかできませんか?」
ポワ、と意識して左手に魔力を送れば、ダンジョンのあの時のように淡い光が俺の左手を包み込んだ。
実際に使っているところを見たせいなのか、やや興奮気味な様子で俺の左手首を掴みながらまじまじと観察を始めるフェイルさん。
部屋の床材から木を生やしては俺の左手に触れさせて消えていく様子を見て、さらにその興奮度合いは増し、ついには人前には見せられない顔をしていた。
話を戻そう。
「使えますかね?」
「まぁ、試してみないことにはわからないが……十分に可能性はあるだろうねぇ。クシシッ、本当に君は興味深い研究対象だよ」
「あまり褒められてる感じがしませんよ、それ」
笑みを浮かべてこちらを見るフェイルさんに呆れながら、そろそろ部屋へ戻ろうかと入ってきた窓へと足を向ける。
そんな折、コンコンと扉をノックする音が部屋に響いた。
慌てて【転移】を使って部屋に戻ろうとしたが、「エリュシラです」という扉の外から聞こえた名乗りに、俺はピタリと動きを止める。
「……エリュシラ? そんな名前の子、私たちの中にいたかい?」
心配そうにフェイルさんがこちらを見るが、彼女のことをまだ知らないのなら当然のことだろう。
とりあえず問題はないことを伝えると、フェイルさんが扉の外にいる彼女へ入室を許可した。
失礼します、と部屋に入ってきた彼女を見て、フェイルさんは「今代の聖女様じゃないか」と目を見開いた。
「……いや、待てよ? たしか初代の聖女の名前もエリュシラだったはずだ。《竜殺しの魔法使い》くん、これはどういうことだい?」
フェイルさんが説明を求める中、俺は部屋へと入ってきた彼女を見る。
瞳の色はサンクティアさんの翡翠から、つい数時間ほど前にもみた黄金色へと変わっていた。
どうやら中身が交代している間、外見的な変化は瞳にあらわれるらしい。
「エリュシラさん。彼女には話しても?」
「……あなたの協力者であるなら、その方がよろしいでしょう」
「というわけで、体はサンクティアさんですが、今の中身は聖女神国の初代聖女であるエリュシラさんです。サンクティアさんが寝たから来たんですか?」
フェイルさんへの説明は簡単なものにとどめ、俺はエリュシラさんへと尋ねる。
すると彼女は、「それもありますが……」と俺の左手を指差した。
「なんだか、懐かしい気配がしたので……つい来ちゃいました」
「ああ、なるほど……昔の勇者も、同じ光属性の魔法を使ってたそうですもんね」
エリュシラさんは勇者の仲間だったのだ。同じ魔法の気配を感じ取れば、気になってきてしまうのも頷けることだろう。
「……まあ、そういうことにしておきましょう」
「……あー! もう訳が分からない! から、この話は置いておくことにするよ。それで、エリュシラくんだったね? いったい何の用かな? 懐かしいという思い出話がしたいのなら、全部終わってからにしてくれたまえ」
初代の聖女であるエリュシラさんに向けて、やけに偉そうなことを宣うチクショウエルフ。
少しは敬意くらい持ったらどうだとも思うが、エリュシラさんの方は特に気にした様子もなくニコニコしていた。
すごい……さすが八〇〇歳越え。三二一歳とは度量が違うということか。
……ヤッベ、睨まれた。
「……光の魔法が使えるのなら、一つお願いしたいことがあるんです」
「聞きましょう」
静かに告げられた頼みごとに対して即答する。
驚いた表情を浮かべたエリュシラさんだったが、また何かを思い出したのか優し気な笑みを浮かべて「ありがとうございます」と頭を下げた。
彼女の黄金色の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。
「もし、教皇グレゴリアを打倒してもなお、彼らの洗脳が消えなかったその時には……《
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