195話:せめての抵抗
教皇グレゴリア。
アイシャから共有された話によれば、聖女神国にて勇者召喚を実行し、聖女の排除、そして世界の王となるという意味の分からない計画を企てている男。
その話を聞いた時、いったい世界の王となってどうするつもりなのかと首を傾げた彼女だったが、そんな相手が王城を訪れたということでサランは一人待機を命じられたのだった。
「万が一のことを考えて、ですわ」
そう告げたリーダーであるアイシャは、他の近衛騎士とともにその教皇が連れてきたという聖騎士たちの捕縛に向かった。
教皇はともかく、その部下である聖騎士たちはただ護衛として王城へとやってきたのだ。抵抗されることも考えて、腕の立つアイシャたちも命を受けたのだろう。
サランは一人、謁見の間の天井裏からその教皇だという男を見張ることにしたのだった。
何かあれば速攻で奇襲を仕掛け、その首を叩ききる。
首を落としてしまえばたいていの生き物は死に至る。それは昔から狩人として生きていたサランにとって、それは至極当然の事であり、だからこそ首さえ落としてしまえばどんな『人』であっても殺すことができると思っていた。
この日までは。
アイシャの言う万が一が起き、謁見の間は大混戦に。
そんな中、ただ一人教皇と隣の勇者の少年を守っていた聖騎士が動き、マリーンの魔法によって足止めされた今が絶好の好機だった。
「離れましたわよ……! サラン!!!」
その一言で、サランは天井を突き破り、真下に向かって一気に飛び込んだ。
逆手に持った短剣は真っ直ぐ教皇の首過ぎに一閃を走らせ、ゴトリと笑みを浮かべたままの顔が地面を打つ。
動揺で動けない勇者の少年を魔眼で無力化したサランは、勇者の顔から手を放して立ち上がった。
万が一の場合。
もしも、教皇の手勢と戦闘行為に発展した場合、隙を見て教皇を討つこと。それがリーダーであるアイシャからサランへの指示であった。
聖騎士……いや、親衛隊の戦意を削ぐ、あるいは彼らの降伏。それが無理であっても、教皇本人の企みを阻止することはできる。
「ク、クソ女ァアアアア!! よくモ、よくモ……!!!」
アイシャの相手をしていたヴァレンティアが怒髪天を衝くような怒りをあらわにし、アイシャとの斬り合いを中断してサランに向かって飛び出した。
だがそうはさせないとアイシャが進路を防ぎ、一進一退の剣戟が再開される。
「邪魔なんだよ金髪ゥウウ!! あのクソ女が殺せないだろうガッ……!!」
「行かせるわけがないでしょう! あなたこそ降伏したらどうですの? もう教皇はいないのですし、抵抗する意味もないはずですわ!」
「ふざけんな死ネ!」
アイシャの言葉でも止まる様子はなく、それどころか攻撃の激しさは増す一方。
対してマリーンが足止めをしていたギリウスは、既に【土喰】の拘束から抜け出しており、ただただ首を落とされた教皇へと視線を向けていた。
その足元には、杖を支えにして蹲るマリーンの姿。
リリタンの方も同様に、戦闘は未だ治まる様子はない。
近衛兵の相手をしていた親衛隊がフリーになっている以上、そちらの相手は自分がやるしかない。
やるしかないかと短剣を構えたサラン。しかし、突如として謁見の間に響いた笑い声に、彼女はすぐさま周囲へと視線を巡らせた。
それを見て、目を見開いた。
「キヒャッ……! キヒャヒャヒャヒャヒャ!! いやはや、まさかいきなり首を斬り落とされるとは、考えてもいませんでした。さすが、《白亜の剣》の一人。《獣狩り》、でしたか?」
「うそ、首だけで……!?」
首を落とせば、人は死ぬ。それは彼女にとっても、誰にとっても当たり前の常識だった。
「驚きますか? いや驚くのでしょう。なにせ、この状態を見れば、誰であっても私が死んだと思うはずですから」
ですが、と首が呟く。
それと同時に、首は瞬く間に真っ黒に染まり、そしてボロボロと解けるようにして宙に消えていく。
その様子を驚愕の表情を浮かべていたサランは、背後からのため息に短剣を構えて振り返った。
「ほら、この通り。こう見えて、私は教皇ですから」
「……化物め」
「……キヒッ! ずいぶんな言われようだ。とはいえ、あの聖女にすら知られていなかった秘密です。ギリウス」
「っ!?」
僅かに空気が揺らぐ音を耳にし、咄嗟に短剣を振るったサラン。
運がよかったのだろう。振り切った短剣は、まさに今迫っていた剣を間一髪のところで受け止めていた。
(力負けする……!)
そう判断したサランは剣を受け流すか前に切り替え、ギリウスの力を利用する形で彼の背後へと跳んだ。
ちょうどギリウスと入れ替わるようになり、教皇グレゴリアを守るようにギリウスが立つ。
「勇者様は……ほう? なにかの魔法にでもかけられましたかね? 若干ながら、私の洗脳の力も弱まっているのを見るに……私と同系統の力で上書きされてしまいましたか?」
「洗脳、ですって?」
いけないいけない、とグレゴリアはボーッと虚空を見つめている勇者に近づくと、彼の頭を掴んで真っ直ぐにその目を覗き込む。
直後、勇者が倒れ込んでしまったのを確認したグレゴリアは、「これで大丈夫でしょう」と笑みを浮かべ、改めてサランへと向き直った。
「ええ、洗脳です。この力があればこそ、私はこうして行動を起こしたのですから。聖女神国も、この親衛隊も。すべては私の意のまま成すがまま。まぁ、あの聖女に効かなかったのは癪ですがねぇ」
「へぇ……それを話してもよかったのかしら? 首を切り落としても死なないうえにそんな力まであるのが広まったら、教皇どころか世界中から敵視されるわよ?」
「キヒヒッ……ご安心を。これからあなた方全員、私の傀儡となるのですから。そこにあなた方の意志は関係なく、私が世界を統べるその時まで、勇者とともに駒として使ってあげましょう。すべてが終われば、同朋を呼ぶための贄くらいにはしてあげますよ」
「お断り……よっ!」
言い終えると同時に、後ろへ下がりながら懐に忍ばせていたナイフ投擲するサラン。
グレゴリアに向けって投じられた三本のナイフ。しかし、それらは容易くギリウスによって斬り払われた。
その僅かな時間。
サランは宙へと高く飛びながらアイシャ、リリタン、マリーンへ視線を向け、そして四人が同時に頷いた。
二本のナイフを投擲。
狙いはアイシャと切り結んでいたヴァレンティアと、リリタンが相手にするイーベル。
その二人の首筋にナイフが突き刺さった。
「ガッ!?」
「グッ……!? 舐めんナ! こんくらイ、あーしらの【聖鎧】ですぐ治るんだヨ……!!」
「【水牢獄】」
突き刺さったナイフに気を取られた二人。ギリウスを除く他の親衛隊を含めた四人の頭上に生成された水の塊。
それらがチャプンと音をたてながら落ち、彼ら六人の顔を覆い尽くす。
「リリタン!!」
「あいよぉ!!」
相手が行動不能になったことで、同時に動いたアイシャとリリタンの二人。
真っ先に飛び出したアイシャはギリウスの元へと走り、リリタンはサランと合流。
「キヒヒ……他はともかく、何人集まったところでギリウスには勝てませんよ?」
「癪ですけど、そうでしょうね……!!」
剣を交えながら叫ぶアイシャ。
そう、勝てないのだ。【聖鎧】という【纏い】とはことなる強化手段を持つ親衛隊は、戦いが長引くほどこちらに不利を敷いてくるようになる。
だが、今こうして剣を合わせて理解した。
「剣の技量において、あなたは私を遥かに凌駕していますわね……!? なぜあのような者の下にいるのか、不思議に思うほどに……!」
「……」
「ですのでこれは、私たちなりの抵抗ですわよ……! マリーン、リリタン!」
「【大瀑水】」
天井へと向けられたマリーンの杖先から、一直線に膨大な量の水が放たれる。
外への穴が穿たれた。
「さぁて、と。ちゃんと逃げろよ、サラン……!! うまいこと、姫様たちと合流してくれよ!!」
直後、一気にリリタンが槍を振りきれば、彼女の力でサランは空高くへ飛び上がったのだった。
凄まじい速度でサランが天井の穴を抜ける。
「っ……! ギリウス! すぐに後を追いなさい! 殺しても構いません……!」
「へっ、そう簡単には行かせねぇーよ……!」
最後に耳にしたリリタンの声。
遠のいていく彼女らの声を振り切り、王城を抜けたサランは一人、リュミネールとその護衛が向かったであろう魔法区へ急ぐのだった。
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明日も更新します。
あ、あいつが来る……
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