第9話 邂逅

「父上。」

「…ここでは団長と呼べ。」

「では団長。グラムライズが目標と接敵しました。」

「共有しろ。」

「はい。…『神眼アイズ』・視覚共有ビジョン…」




「5年ぶりっすね。」

「そうだな。あの時はありがとう。」

「なんで…こんなことしてんすか。」

「世界を壊すため。大聖堂に用があるんだ。通してくれないかな。」

「違うっす!」


エストは後ろの怯えている妊婦を指差し、俺に怒鳴る。


「アンタは罪もない人を傷つけるような人間じゃなかったでしょ!あの時、俺の傷を手当てしてくれたカイトさんはどこ行っちゃったんすか!」

「もう俺は人じゃないよ、エスト。」

「だから…!」


食い下がるエストを一瞥し、大聖堂の方に向かう。


「悪いけど、お前にかまってる暇はないんだ。」


突如、視界が石畳で埋まった。口の中で微かに血の味と、砂を噛む感触がする。


「ぐ…はっ…」

「大聖堂へは行かせないっす。」

「(叩きつけられたのか…!)」


俺を地面に押さえつけていたのはエストの盾だった。呼応するように、エストの体も淡く光っている。


「『守護者ガーディアン』・神の盾アイギス…ここでアンタを止める。」

「ぐっ…『絶望ディスペア』・反発バックラッシュ!」


能力スキルで盾を弾き、エストに向き直る。


「簡単に止められると思うなよ…力貸せ。」

「ハイハイ。」


蛇がため息をつくと同時に、黒い靄が体から溢れ出す。エストも盾をこちらに向け、もう片手には剣を構えた。


「絶対止める。」

「意地でも通る。」


友人との戦いが始まった。




二人の戦いの一部始終を見届け、騎士団長ライオットは深く息を吐く。


「どうされますか、団長。」

「…大聖堂に向かう。レイも呼べ。」

「はい。」


執務室の椅子から立ち上がり、遠くを見つめた。




時を少し遡り、大聖堂前。

エストは、カイトの猛攻によって傷を受けていた。


「はぁ…はぁ…」

「もう終わりか?」

「それ、何なんすか。明らかに、異質すぎる。」


息も絶え絶えの様子のエスト。白銀の鎧も血で少し滲んでいる。


「俺の能力スキルだ。」

「『神の使徒アポストル』の許可無く、能力スキルは得られないはずっす。」

「お前も、すっかり国に洗脳されちまってるんだな。」

「…?どういう、ことすか。」


小さく舌打ちする。少し喋りすぎたようだ。


「お前が知る必要はない。俺は行く。」

「待つ、っす…」


大聖堂に向かって歩き出す。その時だった。


「『稲妻ライトニング』・雷鎚ミョルニル!」

「…!危な…」


刹那、青白い光が俺の体を貫く。感じたことのない衝撃と音が体中に響いた。あまりの攻撃の重さに、地面に倒れる。


「ふふふ…アハハハハ!やったわあなた!やっと虫を潰せたわよ!」

「ああ!当たるまで気づかせなかった!俺の『隠密ハイド』のおかげだな!」

「違うわよ!私の『稲妻ライトニング』が強いおかげよ!」


少し痩せ、老けていて見違えたかと思ったが、確かに両親だった。


「ちょっと邪魔が入ったけど…まとめて潰せたわ!」

「邪魔…?」


そこで気づいた。

俺に覆いかぶさるようにして盾を構えるエストに。


「おい…」


盾にはヒビが入っていて、


「ああ…お前はいつもそうやって…」


肌は攻撃で火傷のようになっていて


「俺はもう敵なのに…」

「…この能力スキルを賜った時に、決めたんす。」


盾をガシャンと地面に下ろして、エストは言う。


「誰も、俺の目の前で死なせないって。絶対護りぬくって。」


エストは膝をつく。もう立っていられないというように。


「最期に、一番護りたかった人を守れて、良かった…っす…」

「エスト…」


そう言ってエストは、俺の唯一の友人は、動かなくなった。


「あなた、まだ生きてるわよ!」

「でも弱ってる!もう一発入れろ!」


の声がする


「使ウカ?」

「うん。」


俺かラ居場所を奪ッて


「おい!こっちに来るぞ!」

「静かにしててよ!集中してるんだから!」


友達モ奪ッテイッタノ声ガ


「許サナイ。」

「ひっ…『稲妻ライトニング』…」

「『絶望ディスペア』・堕落フォール。」


地面に黒い穴が開く。


「ふぇっ、何、これ…」

「底が…ない…」


…落ちていった。もう二度と、光を見ることはない。


「アりがトう、エスト。」


大聖堂を睨みつけ、言う。


「俺は行くよ。」

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