第二章【第十一話】「みんなも、気をつけよう」
おろおろしている金髪と白髪を遠い目で見ていると、なんか金髪の方が本当に喋り出した。
「んんっ……あー、えっと……お取り込み中でしたか では、また後ほどお伺いします、お兄様 【少年】君も、またねっ」
早口にそれだけ口にすると、【世界】は「あっ、ちょ……」とか言うヘッタクソな制止も聞かず、走って出ていってしまった。残ったのは完全無敵のパーフェクト陰キャ二人だけ。
本当にどーすんだよこの空気。あれだべ、「俺ガイル」のキャラソンでも言ってたべ。「ぼっちとぼっちが出逢っても アッチもコッチも興味なし ぼっちとぼっちが組んだって 群れない触れない喋らない ぼっちで居たって良いじゃない(戸部voice)」って。ハハハ。どーでもいいけど、先生めさ歌うまい。
などと理想とただ真っ向から向き合っても仕方がない。僕も乗るしかない、このビッグウェーブに!
「あー、なんだ、その、そろそろお暇させてもらうわ」
「そ、そうか またな、【少年】よ」
そうして、結局何も得ずに神代を後にした、虚しい【少年】だった。
◇◆◇◆◇
久しぶりに我が家に帰ると、母がご飯を作って待ってくれていた。少し帰りが遅れたので、【妹】は先に食べているんだろう、【妹】の分は既に片付けられていた。
「ただいま」
「おかえり、ご飯、できてるから」
そうとだけ言った母に、一つ聞きたい事があった。【世界】がちゃんと仕事をしてくれているかに、微かな疑念が残っていたからだ。あいつがきちんとしていたなら、今頃【妹】ももとに戻っているはずだが、どうにも【妹】の気配がしない。自他ともに認める(実際に知っているのは家族ぐらいだが)ブラコンの僕をして気配を感じないことにも、一抹の不安を抱かされる。ただでさえ疲れているのに、これ以上悩みの種は欲しくない。
「ん、そーいや、あいつは?」
英文にピリオドを打つくらいの、軽いノリで尋ねた。なのに、母から返ってきたのは予想外の言葉だった。
「あんた……いつの間に父親に向かって『あいつ』なんて口きくようになったの……」
驚愕とも戦慄とも取れないような震えた声で、そんなことを言われた。そんな表情をされると、勘違いしたのは向こうなのに、心をチクリと刺された感覚がする。
だから、わざとトーンを上げて、茶化して言った。
「そら勘違いでんがな、奥さん マイリトルシスターのことでっせ そらー旦那さんのことを思いはるんも分かりますけど、今はちゃいますがな」
ノリだけはいい母のことだ。なんやねん、分かりにっくいのう、なんて言うのだろうとばかり思っていた。ならその時のうまい返しまで想定しておこう、そう思っていたから、余計、母の言葉は強く響いた。
「あんた……おかしくなったのかい? お前は一人っ子だろう? ファンタジーの読みすぎもいい加減にしなさい!」
強い語気と確かに困惑を孕んだ声でそう言って、母は強く階段を踏み締めて二階に上がっていった。きっとこのまま寝るつもりなのだろう。
「……っ‼︎」
慌ててケータイを取り出す。画面に「六月四日」と「21:29」が写し出された。慌てて指紋認証を繰り返したせいで結局パスワードを打つ羽目になったが、そんなことはどうでもいい。僕の記憶が正しければ、今日は六月の四日、七子と遊園地に言った日の次の日のはずだ。つまり、日付に齟齬はない。なら一体何に齟齬が……
ピリリッ ピリリッ ピリリッ ピリリッ
スマホを伏せたその瞬間、心底驚いた。電話がかかってきたのかメッセージが来たのか、着信音を最大にしていたせいで、けたたましい電子音がリビングに鳴り響く。誰だよ、こんな真夜中に。そう思ってメッセージアプリを見てみると、どうやらさっきから非通知で何回か電話がかかってきている。こいつか……、犯人。
確かな怒りを覚えてリダイヤルをする。相手を脅して、金輪際かけてくんなと言ってやろうか。そんな考えが頭をよぎった。が、第一声でそれは没になった。
「先程お電話を頂いたものなんですが……」
「あっ、もしもし? 雪白七子です こんばんは」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます