第226話 シロツメクサの集落

 グレイさんを見られてしまったので、ぼくたちはあわてて集落しゅうらくを立ち去った。


 そういえば、集落しゅうらくの名前を聞くのを忘れちゃったな。


 あの集落しゅうらくには、何の植物が生えていたっけ?


 思い返せば、緑色のじゅうたんみたいに、クローバーがいっぱい生えていた。


 今もぼくの足元に、白くて丸い可愛い花が咲いている。


 クローバーは、どんな植物なのか、教えて『走査そうさ


対象たいしょう:マメ科シャジクソウ属シロツメクサ』


概要がいよう:「四つのクローバーを見つけると、幸せになれる」として、知られる。葉と花は、猫でも食べられる』


薬効やっこう風邪かぜ去淡きょたんたんや鼻水を出やすくして、病原体びょうげんたいを体の外へ出す)効果、鎮静ちんせい効果(興奮こうふんおさえる)、止血しけつ作用』


「幸せの四つのクローバー」は、人間だった頃に、友達と一緒に探したから知っていたけど。


 クローバーは、シロツメクサという名前の薬草だったのか。


 猫風邪ねこかぜにも効果があったのに、全然知らなかった。


 う~む、ぼくもまだまだ、勉強不足だな。


 見知っている草花くさばなだから、調べようともしなかったんだよね。


 ちょっと薬草にくわしくなって、思い上がっていたのかもしれない。


 反省はんせいの意味を込めて、この集落しゅうらくを、「シロツメクサの集落しゅうらく」と呼ぶことにしよう。


 またこの集落しゅうらくおとずれる時、今日の反省はんせいを思い出すだろう。



 ぼくとお父さんとお母さんとグレイさんは、また4匹で旅を続けた。


 ぼくは、お父さんとお母さんとはなれていた時のことを、たくさん話した。


 だけど、さすがに死んだことは話さなかった。


 こういう時、グレイさんが猫語ねこごを話せなくて良かったと思う。


 グレイさんは正直だから、ぼくが死んだことをしゃべっちゃうに決まっている。


 もし、お父さんとお母さんが、ぼくが死んだことを知ったら、グレイさん以上の心配症しんぱいしょうになってしまう。


 ふたりには、今でも十分迷惑を掛けまくっているのに、これ以上心配を掛けたくない。


 ぼくはグレイさんに近付いて、こそこそと小声で伝える。


「ぼくが死んだことは、お父さんとお母さんには、ないしょにしてミャ」


『もちろん、分かっているさ。シロちゃんも、オレが泣いたことはだまっていてくれよ。オレは強いから、めったに泣かないんだぞ。愛するシロちゃんが死んだから、泣いたんだからな』


 グレイさんは照れ臭そうに笑い、耳が後ろにペタリと寝てしまった。

 

 そんなグレイさんに、ぼくも笑い返す。


「ぼくも、大好きなグレイさんが死んだら、めちゃくちゃ泣くミャ」


『シロちゃんも、オレが死んだら泣いてくれるのかっ!』


「当たり前ミャ」


『そうか! じゃあ、絶対に死ねないなっ!』


 グレイさんは耳をピンと立てて、うれしそうにしっぽを振った。


 ―――――――――――――――


白詰草シロツメクサとは?】


 江戸時代に、オランダから長崎へガラス製品を輸入される時、衝撃吸収材しょうげききゅうしゅうざいとして箱にめられていたことが、名前の由来ゆらい


 明治以降は、牧草ぼくそう家畜かちくのエサ)として輸入され、日本中に広がった。


 優秀ゆうしゅう蜜源植物みつげんしょくぶつでもあり、「クローバーのはちみつ」が有名。


 若葉わかばや花は、でたり天ぷらにしたりして食べられる。


 やわらかい若葉わかばを、このんで食べる猫もいるよ。

 

 ※そこらへんに生えている野生のクローバーは、農薬のうやくが掛かっていることが多いので、食べちゃダメだよ!

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