第138話 アダック島沖海戦の予感
【1943年5月】
北の海の波浪は激しい。
「いたぞ! 敵艦隊! アダック島の霧に隠れて接近するとは良い度胸をしている!」
「すぐに位置を送ります!」
アリューシャン方面の防衛を強化する日本軍であるが、米軍も日本軍の増強を見逃すわけがなく、チャールズ・マクリモス少将の巡洋艦部隊を派遣した。日本軍の通信傍受をコツコツと積み重ねて輸送船団出発を知る。
マクリモス艦隊は以下の陣容で組まれた。
〇マクリモス艦隊
旗艦:オマハ級軽巡六番艦『リッチモンド』
重巡:ペンサコーラ級重巡二番艦『ソルトレイクシティ』
駆逐:4隻
以上
アリューシャン列島の奪還作戦として日本軍の輸送船団を襲撃した。アダック島の周辺に広がる濃霧に身を隠しながら接近を試みる。航空機の行動も難しい過酷な環境であるが、日本陸軍の百式司令部偵察機が敵艦隊捜索に発進し、対艦電探が利かない中で目視による捜索を行った。
そして、見事にマクリモス艦隊の発見に成功する。
「送った! よし、直掩機が来る前に逃げる!」
ここら辺は米軍拠点の目と鼻の先だ。P-38、P-39、P-40の敵戦闘機が直掩機を務めている可能性が高いが、百式司令部偵察機の最高速は連合国軍の戦闘機を圧倒して突き放す。
「陸軍の海軍どっちかは問わない。爆撃でも雷撃でも反跳爆撃の何でも良いから沈めてくれ」
哨戒機から通報を受け取ったアリューシャン方面軍は今すぐに動ける航空隊を探した。各島に陸軍航空隊と海軍航空隊が展開して動ける部隊が向かう。南方と異なり北方は陸海軍の連携が強かった。
=アムチトカ島=
アムチトカ島はアダック島に隣接する島でないが、アダック島の霧が濃い場合に活動するなど、アダック島の代替を務める拠点を為した。今日もアダック島が濃霧に包まれているため、いつ敵艦隊や敵機が来てもいいように準備を万端に整えるところ、哨戒機から「敵艦隊発見」の通報を受け取る。
「アダック島の近場に敵艦隊が発見された。巡洋艦と駆逐艦の小振りだが反跳爆撃を試すに丁度良い。呑龍改と屠龍で反跳爆撃を仕掛けるが、念のため、キスカ島の海軍さんが零戦を出してくれた」
「遂に来ましたか。我々の新しい槍が抜かれる」
「落ち着け、落ち着け」
アムチトカ島の陸軍航空隊が攻撃を申し出た。反跳爆撃を実戦で試したい。敵艦隊は巡洋艦と駆逐艦の小振りな獲物だが実戦の試験には十分と判断した。本来は米軍による太平洋中部の反攻作戦に備える。北方のアリューシャン方面の限定的な反攻作戦を把握して反跳爆撃の試験と一時的に滞在した。
「今回は呑龍が25番を4発、屠龍が10番を4発を携行する。呑龍は投弾して直ぐにRATOを点火する。脇目も振らないで速やかに離脱せよ」
「屠龍は置いてけぼりですか?」
「その時の判断に委ねられるが、原則として、我々の退避を支援してくれる」
アムチトカ島に百式重爆撃機改『呑龍』と二式襲撃機『屠龍』が配備された。前者は主力爆撃機の後期型として最大1000kgの爆弾を携行できる。反跳爆撃は面の打撃を重視して250kg反跳爆弾4発を抱えた。後者は重戦闘機と襲撃機を兼任して最大500kgまで爆弾を携行できるが、500kg爆弾1発と250kg爆弾2発は面の打撃力が弱く、100kg反跳爆弾4発を携行する。
屠龍は敵艦の対空砲火を減殺するために双発機の強みを引き出した。双発機はエンジンが機首に無い。よって、機首のスペースを最大限に活用することができ、屠龍は襲撃機として37mm機関砲1門と20mm機銃4門を集中配置した。主に対地攻撃用であるが対艦攻撃も卒なくこなす。
余談だが、二式襲撃機こと屠龍は当初こそ重戦闘機として開発された。しかし、重戦闘機の仕事である爆撃機の護衛は一式戦で間に合う。最新の三式戦も登場が見込まれる。あえて重戦闘機を運用する必要性を感じなくなる。双発機の重武装を施すことが容易な点から襲撃機に移行した。
「RATOのロケット噴射の持続時間は10秒にも満たない。直線的な動きは的になるがRATOの噴射に追い付けるわけがない」
反跳爆撃が航空雷撃と共通するハイリスクの緩和策が練られた。それこそRATOが提案される。敵艦に爆弾を投下した直後にRATOを使用した。ロケット噴射による爆発的な加速を以て対空砲火の狙いを絞らせない。長距離の対空射撃が開始される頃合いに使用しても良い。一気に敵艦と自機の彼我の距離を詰める。長距離から短距離の対空射撃を幻惑した。RATOという使い捨てロケットは航空攻撃にトリッキーを授けている。
敵艦隊が直掩機を得ている可能性は排除し切れなかった。哨戒機は「直掩機なし」と報告したが、実は直掩機が隠れていたこともあり得るため、キスカ島の海軍航空隊から零戦が派遣される。アリューシャン列島は過酷な環境故に陸軍と海軍はわだかまりを生じさせる暇が皆無なのだ。
「第一航空艦隊は反跳爆撃のスキップボミングに苦汁を飲まされた。俺達も米艦隊に苦々しい反跳爆撃を飲ませてやる」
「おぉー!」
反跳爆撃は米海軍が先に繰り出した攻撃である。今日の敵艦隊に対する攻撃は意趣返しが込められた。アムチトカ島から百式重爆撃機改10機と二式襲撃機8機の計18機の攻撃隊が発進する。攻撃隊が発進する間にキスカ島を出発した零戦12機が上空に到着次第に待機した。アムチトカ島上空で攻撃隊と護衛隊が合流すると哨戒機が通報を発した海へ急行する。
今更であるが、百式重爆撃機こと『呑龍』は九七式重爆撃機の後継と開発された。高速で重武装、堅牢の三拍子が揃った高速爆撃機であるが、戦闘機不要論に呑まれることなく、高速爆撃機と雖も護衛戦闘機は必須としている。初期型はエンジンの不調に悩まされた。しかし、20mm1門と12.7mm5門の重武装と充実した防弾のおかげで生還率は九七式に比べて高い。エンジンを信頼性の高い三菱の金星に換装した後期型は『改』と呼ばれ、寒冷な北方から温暖な南方まで幅広く対地攻撃に精を出したが、対艦攻撃に反跳爆撃を加える試みが実行に移された。
呑龍改は高速爆撃機の航続距離が短い弱点は改善されていない。陸軍は四発の大型爆撃機で連山を陸軍仕様に直した二式重爆撃機『高千穂』の運用を開始した。一式陸攻を参考にした新型の長大な航続距離を有する『仮称三式爆撃機』も開発する。呑龍改は反跳爆撃専用の爆撃機になるかもしれない。
さて、反跳爆撃専用の爆弾を吊るす呑龍改と屠龍は零戦に護衛された。
アムチトカ島からアダック島までは直線距離で約300kmの短距離である。敵艦隊が被発見から回避行動を採用しても間に合わなかった。濃霧を隠れ蓑にしてアダック島に接近を試みる度胸があるだろうか。
「水上偵察機?」
「こちらアトカ島所属の瑞雲である。敵艦隊らしき航跡を視認した。誘導は任せられたし」
アダック島に隣接するアトカ島所属の水上偵察機が接近する。アトカ島はアダック島の補助として小規模な基地が置かれた。アトカ島所属の瑞雲が無線に割り込んでくる。新型の航空無線機は明瞭な意思疎通が行えた。バンクを振るよりも口頭で伝えた方が迅速にかつ正確に伝達できる。
「助かる」
大型爆撃機の対艦攻撃は空対艦電探を用いたいが、重爆撃機や陸上偵察機、飛行艇に優先され、数の多い双発爆撃機に対する搭載は遅々として進まなかった。1943年には大半の爆撃機に小型化と軽量化に成功した改良型を搭載する。今日は古典的な水上偵察機による哨戒に敵艦隊が引っ掛かった。
さぁ、反跳爆撃のスキップボミングの時間が訪れる。
続く
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