第28話 SS 猫 in 段ボール
~~作者前書き~~
こちらは本編とは関係のないショートストーリーです~!
お楽しみいただけると幸いです。
~~~~~~~~~
もし、道路わきで段ボールに入った猫を見つけたら
・
「なんでこんなところに段ボールが――って、猫か」
『拾ってください』という張り紙に目を向けた有馬は、さっとあたりを見渡して人がいないことを確認すると、その場にしゃがみこんだ。
「ごめんな。うちのマンション、ペット禁止なんだよ」
有馬は『なーなー』と高い声で泣く小さな猫に、申し訳なさそうに語りかけた。
その姿をジッと見た彼は、一度ため息を吐いてからスマートフォンをポケットから取り出す。
「――あ、もしもし由布か? ちょっと待ってくれよ……いま写真を送ったけど、猫が段ボールに入った状態で捨てられててさ、お前の友達で拾ってくれそうな奴いないか? ……俺が友達少ないことは知ってるだろうが。――おう、ありがとな。よろしく頼む」
有馬はその言葉を最後に、スマートフォンをポケットにしまい、猫の頭をなでた。
「よかったな。俺の友達がお前を飼ってくれる人を探してくれるってよ。あいつは友達多いから、たぶんなんとかなるだろ」
・
「ん? あれってもしかして――猫じゃないっ!」
段ボールに入った猫を見つけた熱海は、一目散に目標へ向かって駆け出していく。
そして流れるような動作で段ボール前にしゃがむと、
「にゃんにゃんにゃー」
よくわからない猫語でしゃべり始めた。
通じているはずはないのだが、猫は熱海の言葉に対して『なーうー』という鳴き声を返す。
「そっか、あんた捨てられちゃったのね」
切り取ってみればあたかも熱海が猫の言葉を理解したように見えるが、しっかりと彼女の目線は『拾ってください』と書かれた張り紙に向かっていた。
「にゃんにゃー」
『にゃーう』
「にゃー」
そんな意味があるのか不明なやりとりを数度繰り返した熱海は、きょろきょろとあたりを見渡し始める。
あたりに拾ってくれそうな人がいないか探しているようだが、残念ながら彼女の期待に沿った人物はいなかったようで、静かにため息を吐いた。
「このまま放っておくのも嫌だし……どうしよう。お姉ちゃん、猫アレルギーなのよねぇ」
立ち上がり、腕組みをして悩む熱海。猫は助けを求めるように『にゃーにゃ―』と細い声で鳴いている。
「陽菜乃の家には犬がいるし……有馬の家とか、ダメかなぁ」
そう思い、熱海は有馬に『猫が捨てられてるの。有馬の家ってムリ?』とチャットを送ったところ、すぐに『うちのマンションはペット禁止だ』という返事が返ってきた。
それを見て、彼女は誰が見てもわかるような形でがっくりと肩を落とす。
――が、
『いまどこだ? 俺も行くから一緒に考えようぜ』
そのチャットが届くと、彼女は目を見開いてぴょんとその場で跳ねる。そしてスマートフォンを抱きしめてから、とても小さな声で、
「やっぱり有馬って、素敵だなぁ」
そう呟いたのだった。
・
「あれ、猫ちゃんだ」
段ボールに入った猫を見つけた黒川は、吸い寄せられるように猫のもとへ足を進める。そして、小手調べのように「みゃう」と短く声を掛けた。
『にゃう~』
「も、もしかして私の言葉が通じてるのかな!? にゃにゃ~ん」
『うにゃぅ』
当然彼女の猫語?は猫に通じてはいないのだが、彼女は猫の返事を聞いてわかったようにうんうんと頷く。
「お母さんに聞いてみるから、ちょっとだけ待っててね!」
黒川はそう言うと、猫に向かって「ハイチーズ」と声を掛けた上でスマホを使って写真をパシャリ。そのデータを母親に送信した。
「あ、お母さん? 写真みた? そうそう、捨てられてるみたいなの~。うちで飼えないかなぁ? 大丈夫! ポンタローともきっと仲良しになれるよ! お父さんは私が説得するからっ! あ、あと、私のお小遣いちょっと減らしてもいいので! どうかお願いしますっ!」
相手には見えないにも関わらず、黒川は九十度のきれいなお辞儀をする。
それが功を奏したのかは不明だが、電話口の母親からは、どうやら良い返事がもらえたようで、黒川の顔はパッと明るくなった。
黒川はその場に勢いよくしゃがむと、猫の顎を掻いてあげる。
「私のお小遣いで、いっぱいおいしいご飯を食べさせてあげるからね~」
どうやらお小遣いは減らされてしまうようだが、彼女はとても幸せそうな表情を浮かべていた。
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