第4話「実は今は養生期間」
──どうやら、エルナ=マクダインというお嬢様は形から入る
「……つかぬ事をお聞きしますが、あなた方は本当にそのような恰好で今回の仕事が務まると思っているのですか?」
「……? 最低限の武装はしているつもりだけどな」
魔術師のジュリアスは例外としても、昔と違い、今の二人は冒険者として丸腰ではない。ゴートは
「……不満かい?」
「──不満ではありませんが、不安はありますね。これから
「正論だな。しかし、今日訪れる魔孔はそれほどに危険な場所なのかね?」
「危険か危険でないかに関わらず、防具は身に着けるべきだと思いますが。もしや、貴方がたはそのような事も分からないのですか?」
「いや、実に耳の痛い正論だ……」
エルナの皮肉にジュリアスは苦笑する。すると、呆れたように
「……それだけ自分の能力に自信がお有りなのですね。確かに貴方のような魔術師は留学先で何人も見てきましたもの」
「……俺もそいつらと同じだと?」
「そうですね」
エルナは
「ふふ、そいつは手厳しいな……まぁ、立ち話もなんだ。見たところ、あの馬車は
「いいえ。少し狭いですが、四人とも乗れると思いますよ」
「そうかい。……それじゃ、互いの自己紹介はあらためて馬車の中でやるとしよう。ここからでも結構な時間かかるとみたが。どうだい?」
「……分かりました」
エルナは、そのように答えた。
*
四人が馬車に乗り込むと御者はまず馬達に水を飲ませる為、村の井戸端で小休止をする。その間、車内がまだ静かなうちに自己紹介を済ませた。到着までに交わされた
会話はそれだけだ、彼女に遠慮したのか、雑談も特にしなかった。
──妙に重苦しい空気の中、馬車は村を出発する。
まずはダイン川に突き当たるまで走らせると、その後は土手の下道を上流へ向かうように北へ進み──景色が田園風景から延々続くような雑木林に変わった頃、速度が
「おや、意外に早く付きそうだな?」
──と、言っている傍から馬車が停車する。村を出発して30分かそこらだろうか。
御者が扉を開け、「付きましたよ!」と声をかける。
四人は馬車から降りると体をほぐしながら辺りを見回したり、様子を
片側は土手。これは何処にでも見覚えがあるような何の変哲もない、土を盛られた川の土手である。冬の始めという時節柄、それは
もう片側は雑木林である。木々の密度はまちまちで、特に手入れはされていない。
道の
「それじゃあ、皆さん。
御者が道の先を指差した。彼に
「……
「へぇ、あれが瘴気かぁ……初めて見た」
「ま、街に住んでりゃ縁のない代物だしな」
「人間が神に与えられた能力の一つですね。瘴気の可視化、それにより魔孔の迅速な発見が可能になる」
彼らの無知を察したのか、エルナが口を挟んでくる。
──典型的な魔術師の仕草だ。
「人類の使命は魔物の撲滅とその発生源たる魔孔の破壊だもんな。だから、
そんな活きのいい後輩に対して、ジュリアスも魔術師として付け加えた。
「……そうですね」
言葉とは裏腹に面白くなさそうな感情が表情に出ていた。
賢者由来の腹芸は苦手らしい。そのあたりは年相応、微笑ましい限りだ。
「……何か?」
「──うん?」
ジュリアスは生返事でとぼける。視線をごまかすように彼女の姿を観察した。
……エルナは馬車の中に自分用の武具を用意していた。馬車から降車するまでにはそれらをきちんと身に着けている。
革製の
そして、木製だが要所は金属で補強している
「その
魔術師が振るう杖には幾つか種類があるが、
また、
「……貴方は素手で戦うのですか?」
「今はね。……しかし、あいつらを見てるとそろそろ自分も何か持ちたいという欲は出てきたかな」
ゴートとディディーの二人は剣を手にして稽古している訳だが、現状ジュリアスはそれを眺める事しか出来ない。
……ぼちぼち物足りなくなってきているのは事実だ。
「けど、君の
「私に師はいません。これは
「そいつは殊勝な……いや、いい心がけだな。ということは、その流儀は別に本場の
そう言って、冗談めかしてジュリアスは笑いかける。
「流行り、ですか……? 貴方は
「
一般に
「まさか、それが流行ってるのか? あんな取り回しが悪い物を!?
「そう思うのも無理ないでしょうが、事実ですよ?
「ああ、なるほど……念動の魔法で空を飛ぶのか……
エルナの説明を受けて、ジュリアスも得心は行ったようだ。
一方、ゴートとディディーの二人は少し前の方で──
「魔孔は何処にあるんだろう……あの瘴気の中の、雑木林にでもあるのかな?」
先程から目を凝らしながら、ゴートが呟く。
「有り得る。ここらは道だし、あるとすれば林の中が妥当じゃないか? ……けど、多少なりとも人の往来がありそうなところに魔孔があるなんてな──」
「いや、ここらは普段、立ち入り禁止なんよ。元々はね、
「……遊水地?」
二人の話し声が聞こえていたらしく、御者が
「そう。土手がね、他のところよりも低くしてあるのよ。そうして洪水の時にわざと
「立ち入り禁止、か……それで、禁止されているうちに魔孔が開いたって事かな」
……ジュリアスとエルナも二人の所に寄ってくる。
「卵が先か、
「そうだ。ここは最近、騎士団が掃除したばっかりだからなぁ……だから、馬車でもこんな近くまで入り込めたって訳だ。いつもなら、ここまでこれんのよ」
「なるほどね……そういう事なら、俺達みたいな
「そういう事です。本来なら冒険者に依頼すらしない、魔孔の
──ジュリアスの説明にエルナが付け加える。
「……なんか
「それじゃぼちぼち行くとしよう。相手が弱いと分かった以上、気楽にやろうぜ」
ジュリアスが号令をかけた。四人は
*****
<続く>
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