第41話 奪い奪われ

恋人を、取られる。

恋人の、唇を盗まれた。

おまけに、呪が解けた。

皆はミケの美しい白銀の髪色にうっとりして、櫛でけしくずっている。メアリーもうっとり。

「あらあらまあまあ」とシノブも参加していろんな形に結い上げていた。

どうしよう。

私の呪は解けたけど、コクヨウの呪は解けない。

久しぶりに発作に襲われてコクヨウは寝込んでしまった。

「おまえ!ほんと空気読まん!どうするんじゃ?!マジ!」

「魔王くらい、我らで倒せよう?」

マジギレのエルフと元同僚の魔術師、臙脂。

「他の者も乗り気だぞ。他のところでベイビー扱いされているより魔王討伐の方が胸が騒ぐ。おまけにうっかり設けた呪を解いてやれば若人の信頼も得られる」

「下衆、ほんと、下衆」


美青年のまま、威力のある言葉を吐く神獣エルフ。

臙脂はその名の通り紅色に近い髪の自信に溢れた少年だった。


元同僚の魔術師同士、なぜあんなことを、とかお前だけずるい、とか。そもそも好きに結婚したら良いとか。だから、まだ混乱中の世の中で、元担当のわしが心痛めてるのに、お前たち〜!!とか。とにかく珍しい乙女、手に入れた。だの何日かやり取りが続く中。コクヨウは自室で寝込んでいた。


「自分を偽ったり他人を傷つけたわけでもないのに、なんで発作が起きるのよ」

白銀の髪が嬉しい。きっと母もこんな髪色だったのだろう。臙脂が言うには「一度呪が解けたのだ。呪いが戻ることはない。また三毛猫模様になりたければ色だけ戻そう」そして、珍しい乙女、結婚しろ!との求婚。


(もう恋人同士だよね……)

特別に部屋に入れてもらえる。

白銀の髪を垂らしながら、コクヨウの顔に、顔を近づけて、

(御伽話みたいには、いかないでしょうね、愛がまだ足りない気がする……)

もう神獣様と臙脂様に奪われたのだから、効果とか期待できないけど。

そもそも、これ、寝込みを襲う感じだし……!

ええい!


ぐっと唇を、唇に押し付けてみる。

寝息を妨げないようにすっと離して。

「いま、なにか、したか……?」

起こしたー!

「なにも、してない……」

「うそだ、なにかした」

「寝込みを襲ったわ」

かっと目を開いて、私を見つめてる。


「は、破廉恥、いや、いやらしい……、な、何した、どこか触ったか?いや、口にするな……っ!」


うーん?ここ最近で、いちばん、元気そう?


「あの?胸の痛みは?」

「そんなの感じてる場合か!」

「え、呪、解けた?」

「お、お前なんて、人の寝込みを襲う、最低な痴女だ、痛い!」

前より格段と胸の痛みが増しているように見える。

「呪が解けるかと思ったのに」


私が言う。言ってしまった。


「そんな軽い気持ちでキスしたのか……」


「気づいてたの?どんな気持ちだった?こう、呪が解けそうな感じとか」


「出ていけ……」


「わかった、ごめんね」


その日、コクヨウは姿を消した。

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