第20話 王子様
そう、最初は調子が良かったのに。
大嵐だ。
おまけに馬が心配でコクヨウはその中、馬小屋までしばらく馬の様子を見ていた。
一方、ミケは、どうしたらいいのかわからずも、危険だからログハウスの中に戻ろうと!と入り口からコクヨウに提案する。
結局馬は落ち着いて雨風に打たれているし、雷も鳴ってくる。コクヨウは諦めてログハウスに戻ってくる。
「着替えがない、脱ぐ」
「ぬ、脱ぐ、……しかないのね。お城の人、は、来れないわよね」
「これないこともないと思うが、危険だと思う」
上半身を、水の滴る服を脱ぎ、露わにしていく少年。なんだか、色っぽい。
!
私が目覚めてどうするの?!
「気が利かないな、暖炉の火を起こしてくれ」
「ごめん!」
しょうがない、見惚れてしまった、自分の落ち度。
「したは、脱がないわよね」
「!、脱いでどうする、下着になるじゃないか!」
上半身を伝う雫をびしょ濡れの服で拭う。そこはやっぱり躊躇するんだ。
薪と要らない紙とを合わせて火をつける。
火、ちっさ!
でも、外の薪までは取りに行けないし、その薪もこの暴風雨で湿っているだろう。
コクヨウが唇を紫にしている。
「そうだ!」
荷物を漁る。
「お茶セット!メアリーありがとう!ねえ、コクヨウ、帰ったらメアリーの話聞いてあげてよ、いい人なのよ!私より二個年上で!」
「……二個年上……?」
お茶セットの用意をしながら、お茶パックに入ったハーブを見て、
「良かったわね、コクヨウ、大好きなハーブティーよ!」
水も水筒のもので足りた。つくづく外に出なくていい自分は楽なものだ。コクヨウは馬のためにしばらく外にいたというのに。
お湯が沸くのをコクヨウが震えながら待っている。
しまった、私、コクヨウの事、呼び捨てにしちゃった。
他にも何かできることはないかと見渡して、ベッドに毛布もない。運が悪い。
こぽこぽと、水が音を立てる。
「もういい、飲む」
「飲むなら熱々じゃないと、あったかいの好きでしょ?」
渋々、体を抱きしめ出したコクヨウ。
お湯が沸くのって何分なんだろう、長いな、と感じるしかない。家でも手伝いはしてきたが改めて暖炉や薪の用意、無言でも、父と協力してきたのだな、と離れてみて感じる。
暖炉の火にも期待できず、椅子に座っていたコクヨウは、発作とは違う、体の震えをみせる。
熱が出る手前だ。
「毛布があれば良かったのにね、服は、乾いてないわよね」
人の服に触れるのは気が引けたが一応確認する。こんなに雨水を吸っている。
やがて、コクヨウの震えが収まり、顔を真っ赤にする。熱が出てしまったのだろう。
銀色の硬いカップに、やっとできたハーブティーを淹れて
「ハイ、こぼさないようにね」
熱に浮かされた手で手元が狂わないように、カップを両手に持ち、限界まで近くまで行き、ひざまずいて渡す。
子猫でも受けとるようにカップを受けとるコクヨウ。ちょっと手が触れて、指や手の大きさ、太さにこっちが意識してしまう。
相手は病人、相手は病人!
口元まで持っていきそうになってカップを素早く下に置くコクヨウ。
「毒味の心配?なら、私、飲むけど?」
自分で淹れた茶だし、用意してくれたのはハーブは多分ダン。用意はメアリー。二人になら、信頼がおける。城の使用人は少ないからあとは介在していないと思う。
「手に力が入らない。落としそうだ」
ぽやあ、とした熱のある目でとろんと語る。
し、しかた、ない……。
カップを持って口元まで運んでやる、それでは傾きが足りなくて液体を飲みづらいのか、コクヨウがミケの手の上から両手を添えてカップを傾けて飲む。
「〜〜〜」
なにぃ、この気持ち。
なんだか、大事にお世話してるメアリーの気持ちがよくわかる。全体的に胸が、きゅう、となる、という、その全体的にがわけがわからない。体全体がみんなに見られてるみたいだ。
『特別な人』。
どうしていまその単語が頭に浮かぶの。
「横になりたい」
「横に?」床が冷たい。もっと暖炉の火力があればいいのに。するとコクヨウは床に寝転んでしまう。最初こそ「冷たくて気持ちいい」と言っていたが、すぐに「寒い……」、ともはや苦しみに近い感情を見せ始める。これ以上熱が上がるのは、対処ができない!
暖炉の側に顔を向けているコクヨウは寒くてなかなか休めないのだろう。二人して、ある考えが浮かんでいるのはわかっている。
「〜〜〜!暖!暖をとりましょう!今だけ!お互い嫌がらず!緊急事態だからっ」
「……温もりは欲しい……」
「温もりとか言わないで!恥ずかしいから!たぶん、メアリーなら、お、乙女の体をさらしてまであたためてくれるとおもうけれどっ!わたしは、これが精一杯だから」
コクヨウの隣に寝転んで、自分の背をコクヨウにくっつける。
「あたたかい……」
コクヨウが呟く。でも、ほんとうは。
向かい合って抱きしめあった方が温かい。
二人ともしかし実行に移せない。
熱のあるコクヨウの背中が熱い。更に熱が上がるのは防げたみたいだ。ハーブティーの水分補給もハーブの落ち着く効果も効いている。本当は、ずっと水分をとっていない自分も飲みたかったが我慢。
すると、コクヨウが寝返りを打ち、ミケを抱きしめる。
「?、!、?」
眠ってい、る?こんな硬い床の上で?
まあ、熱で辛いんだろう。朝起きたらびっくりするだろうな。と、いうところで。
「ん?」
お互い抱き合ってみると、細身で背が高いと感じていたコクヨウの身体が、実は自分と身長が近いことに気づく。なんとなく、シノブの思い出話を思い出す。誕生日がわからない……。
「ねえ、コクヨウ。あなた何歳?」
デュラハンの馬を盗んだ城の王子様。くぐもった声で、ハーブ園で再会したときのような繊細で、今はか細い声で、
「……十五歳……、ん、……」
寒いのかミケの身体をさらに密着させる。
「え?!」
十五歳?!自分より年下ではないか。しかし言われてみればどんどんと、しっかり十五歳に見えてくる。
「毎年、誕生日は、父上と、母上が、」
城の誰にも気づかれずに帰ってきて祝ってくれる……。
「十六回目は、もうすぐだ」眠たそうに、半分以上眠っているのだが、呟いて寝息を立てる。
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